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とおい ところへ いきたいな(モーリス・センダック)

この日常と嫌になるほどそっくり

とおい ところへ いきたいな
モーリス・センダック(作)
じんぐう てるお(訳)
後半の延長期間など、どうにも緊急性が実感しづらかった宣言でしたが、やっと解除となりましたね。長かったなあ。

今回ご紹介する作品のタイトルは、まさに今の気分にぴったんこ!と言える内容ではあるんですが、では、主人公のマーチンが遠くへ行くのかと言えば、そうでもないお話です。

お母さんは赤ちゃんの世話に気を取られてばかりで、話を聞いてくれません。

すねてしまったマーチンは「とおいところ」を探すつもりで家を出ます。すると道端でスズメと年老いたウマに出会います。

彼らに「とおいところ」はどこかと尋ねると、両者とも自身がおかれた現状を嘆きながら、自分たちも「とおいところ」へいきたいと言い出します。そこへネコがやってきて…。

元々は、わちゃわちゃとお茶目で滑稽な、楽しい作品なんですが、今ここで注目したいのは、マーチンがその行動に至った心情です。

自身の理解と納得が追いついていないことを蔑ろにされたままで、保護者のいいつけを守らされる窮屈な日々。存在を気にかけてもらえない疎外感。

「聞き分けのいい子」であるほど、そうやって扱われる理不尽への寂しさ。すっかり嫌気がさして、遠くへ行ってしまいたくなる気持ち…。

誰もが子供の頃に、少なからず経験したことのある息苦しさではないかと思います。

幼いなりに、親や保護者のおかれた状況がわからないではない。もちろん下の兄弟が悪いでもない。でも、自分のことも気にかけてほしい。その葛藤が苦しかったんですよね。

私が今、この作品を読んで改めて感じたのは、私たちがこの一年余りおかれている日常ってば、幼い頃に感じたあの理不尽と、嫌になるほどそっくりやん!ということです。わけもわからず、結局なんだかんだで言いなりになるしかない、あの感じ。

コロナ禍になって以来、この作品で描かれているマーチンのように、差し支えない範囲で、たまにちょっとずつでも発散しながら過ごしてきた人もいれば、とにかく控えなきゃ!と、真面目にじっと辛抱してこられた方も、たくさんおられるだろうと思います。

世界中がコロナ禍に陥って一年半、ウイルスが変異するのにも似て、日本中を覆ったままの不安な気持ちの一部も、「不満」へと“変異”しつつあるのかな?と感じる場面も増えてきた気がします。

7月に入り、今年も折り返し地点となったわけですが、残り半分の日々をどのようなスタンスで過ごせばいいのかなあ…?

緊急事態宣言が発出されるたびに、ぱったり誰も来なくなっちゃう自分のお店を眺めながら、マーチンの気持ちに激しく同意したくなったのでした。

あー、どこかの避暑地で、ゆっくりしたい(結局それかい!)
とおい ところへ いきたいな
モーリス・センダック(作)
じんぐう てるお(訳)
冨山房
profile
恒松 明美
ギャラリーリール(GALLERY RiRE)店主

小説なら1日。映画なら2時間。絵本なら、長くても15分くらいでしょうか。 それでも小説や映画に負けないくらい、心が満たされる絵本があります。 毎日、時間がたりない…。そんな、忙しく働く女性にこそ、 絵本はよきパートナーとなってくれると思います。

毎日窮屈だな。ちょっと背伸びしてばかりだったかな。 「心の凝り」が気になる時におすすめの、絵本をご紹介します。

ギャラリーリール(GALLERY RiRE)
大阪府堺市中区深井水池町3125
営業日:基本的に事前予約制(ご利用方法はHPご確認ください)
定休日:月曜・火曜+不定休
HP:https://galleryrire.theshop.jp/



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