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南極ではたらく(渡貫淳子 )

そんなことが可能なの?!

南極ではたらく
かあちゃん、調理隊員になる
渡貫淳子(著)
サブタイトルで読むことを決めました。綿貫淳子さんの『南極ではたらく』。

”かあちゃん、調理隊員になる”というけれど、そんなことが可能なの?!

私は南極で働く人々の存在は知っていましたが、どうすれば行けるのか、どんな人が行っておられるのか、何一つ知りませんでした。

働く部署によって資格条件は違うのでしょうが、著者 綿貫さんが目指した「調理隊員」の場合、
一般から調理隊員に応募するための応募資格は「調理師免許を有していること」「履歴書に2通以上の推薦状を添付すること」それだけだ。
(綿貫淳子さん 『南極ではたらく』P20より引用)
なんと!

もっとややこしい条件がありそうなものなのに、問われるのは2項目だけ?

しかしこの文章の続きを読んでびっくり。
もちろん実務経験もなければならないし、1年間分の食材を用意し、それを管理するスキルは最低限必要だ。
(綿貫淳子さん 『南極ではたらく』P20より引用)
1年間分の食材を準備する?

さらりと書いておられますが、全員の1年間分の食材管理ですよ。

私なんか、1週間、1ヶ月の食材管理が行き届かず、食材をダメにしてしまったり、途中で買い足したりしております。

1年なんて気が遠くなりそう。

なぜ1年かというと、南極で食材を調達することはほぼできないし、日本からの食材補給は1年後、次の船が来るまで一切ないからなのです。

知らなかった!

この本にはそんな「知らなかった!」が満載です。

そもそも南極地域観測隊は夏隊と越冬隊に別れていて、夏隊は南極の夏に当たる12月から2月の役2ヶ月間、越冬隊は12月から1年間観測を続けること。

人員交代の際、必ずやらねばならないことは計画停電であること。

これは昭和基地の発電機を全て一旦停止させ、そこから復旧させる訓練です。

南極で発電機にトラブルが起こり、もしそれを復旧できなければどうなるか?

想像しただけでも恐ろしい。

近年の地震や豪雨による大規模停電での被害を見る以前に、私は阪神淡路大震災の時に停電を経験し、電気がなければほとんどのことができないと実感してはいましたが、昭和基地においてはその比ではない。

電気は文字通り「命綱」なのですね。

ですから昭和基地では電気もそれぞれ好きに使ってはいけないのですって。

一度に電気を使いすぎないよう、お互いに計画して使っているそうです。

そしてゴミの問題。

南極にゴミを捨てることはできません。

全てのゴミを日本に持ち帰っているんですって。

燃やせばいいじゃない、と思うかもしれませんが、燃やした場合、灰を日本に持ち帰らねばならないそうです。

水も汚水は浄化して海に戻さないといけません。

ですから、調理もゴミが出ないよう、洗い物を少なくするよう、工夫を凝らして取り組んでおられます。

その方法の一部は、私たちの日常生活にも大いに役立つと思いました。

色々な制約がある上、閉じ込められたような空間での団体生活はさぞや大変だったろうと思うのに、綿貫さんの語りは穏やかで、全然特殊さを感じさせません。

その辺りはお人柄かもしれません。

ところで私は、この本の中で「読み間違い」をして、自分で自分に受けた箇所があります。

それは「 昭和基地の交通事情」の文中に見つけた「極道」という文字。(綿貫淳子さん 『南極ではたらく』P104)

「ごくどう? なぜ南極昭和基地で ”や”から始まる自由業の方の話が出てくるのか?」

そう思ったんです。

すぐにわかりました。

県の道は県道、国の道は国道。「極道」は南極の道なんだと。

他にも、南極では靴下がすぐにダメになるというのも実際そこに滞在しなければわからない話だと思いました。

極度の乾燥でかかとや足裏がガサガサになって、すぐに靴下に穴が開くんですって。

知れば知るほど面白い南極事情。

それにしても普通の主婦だった綿貫さんが南極ではたらきたいと思ったきっかけはなんだったと思いますか?

それは一枚の写真ですって。

子育て中だった綿貫さんが新聞朝刊でご覧になったのは、日本人女性記者で初めて南極で越冬した朝日新聞の中山由美さん。

真っ白な大地に色あざやかな防寒着を着た中山さんがスッと立っていた、それがきっかけなのだそうです。

たった一枚の写真が人生を変えることがあるのですね。

そして意図したわけではないのに、誰かの行動や姿勢が別の誰かを突き動かすことがあるのですね。

ちなみに、綿貫さんと同様に南極を目指しておられた方が、

「同僚に南極で働きたいというと、バカにされる。バカにされないまでも本気にしてもらえない」

とおっしゃっていたのが心に響きました。

人の夢をバカにしてはいけません。

突拍子がないとか、できるはずがない、というのはあくまでも自分の物差しで測ったこと。

その夢に向かって一歩一歩前進し、叶える人はいらっしゃる。

もし夢が叶わなかったとしても(南極に行けなかったとしても)そこまでの努力がその人を一段高みに連れて行ったはず。

それをバカにした人はきっとどこへも到達できないことでしょう。

不肖ワタクシも、OLから声の仕事に転職を決意したとき「その年で?無理でしょ」と言われた経験があります。

だからこれまで、自分は同じことをしてこなかったつもりですが、あまりにも大きな夢を聞かされたら、驚いてしまって失礼な反応をしてしまうかも。

今まで以上に気をつけます。
南極ではたらく
かあちゃん、調理隊員になる
渡貫淳子(著)
平凡社
平凡な主婦の料理と生き方を変えた南極での1年4ヵ月の挑戦を綴った初の著書!! 出典:楽天
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池田 千波留
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