外国語上達法(千野栄一)
外国語を学ぶということの本質 外国語上達法
千野栄一(著) 千野栄一氏(1932-2002)は言語学の専門家です。スラブ語(ロシア語やチェコ語、ポーランド語など)を中心に、いくつもの言語を研究され、教えてこられました。
ご本人いわく、「語学が苦手」で、神のように語学ができる先生方や優秀な先輩たちに圧倒され、常にコンプレックスを抱いてきたそうです。 そこで、そうした「語学の神々」に語学習得のコツについて教えを乞うたり、語学の達人の伝記を読んだりしてきました。 そうすると何か国語もマスターした「神々」には、共通する特徴があることに気がついたそうです。それらをわかりやすくユーモアたっぷりにまとめたのが本書『外国語上達法』です。 外国語を上達させるうえでのコツとはなんでしょう。本書ではいくつかのキーワードをあげて章ごとに解説しています。 まずは、目的と目標です。目的のない学習、目標のない学習は身につきません。自分はなんのためにその言語を習得しようとするのか、どこまで身につける必要があるのかを意識することが要です。 では、語学の上達に必要なものはなんでしょう。著者が、「語学の神々」のなかでも一目置かれる「神」であるS先生にたずねたところ、S先生の答えは明快でした。 「それは二つ、お金と時間」 身銭を切ることで、そのお金を無駄にすまいという意識が働くからです。ただし語学の習得には時間も必要です。半年くらいはがむしゃらに、そのあとも少しずつでも繰り返すことが大事です。 続けて著者は「そのお金と時間で何を学ぶべきなのか」を問いました。それに対してもS先生の答えは明快でした。 「覚えなければいけないのは、たったの二つ。語彙と文法」 言語によって違いはありますが、もっとも使う頻度の高い単語は、だいたい千語。3千語ほど覚えれば、書かれた資料の90%は理解できるそうです。これらを早いうちに覚えてしまうことが大切です。 文法の学習は不人気ですが、これは「不当」とのこと。文法は先人が研究によって規則性を明らかにしてくれたありがたいものなのです。 一冊の学習書のなかの変化表を切り抜いて貼りなおすと、だいたい10頁くらいになるそう。これをモノにすれば基本の骨組みができると思えば勇気がわいてくるというアドバイスは具体的で、よしやってみようと思えてきますね。 また本書は、外国語の習得には、教師の役割が大きいと言います。では良い教師の条件とはなんでしょう。 当然ですが、まず自身がその外国語をよく知っていなければなりません。教え方が上手であることも求められます。そして一番大切なのは教育への熱意だと言います。「教師が教壇に立つということは、受講者から全人格の審査を受けているということ」という言葉は、深く受けとめたいと思います。 会話の章も興味深いです。外国語での会話の能力を高めるには何が必要か。一瞬目をつむって考えたのち、語学の神様は「いささかの軽薄さと内容」と答えました。あやまちは人の常と割り切って、間違うことを恐れないことが大切。「いささかの軽薄さ」は、そういった態度を後押ししてくれます。 だからといって、外国人に対して、やみくもに意味のないフレーズをぶつけて答えさせるという態度は失礼です。会話というのは、自分が相手に伝えたいことを伝え、相手が伝えたいと思っていることを聞くことであって、自分がたまたま知っているフレーズを使ってみることではないのです。つまり「内容」がないところに会話は成立しないのです。 本書の最後に述べられているのは「レアリア」についてです。レアリアとは、その言葉の背景にある歴史や風俗、習慣などのことです。たとえば外国のレストランで「お茶」や「セロリのサラダ」を注文すると、目の前には日本人の知っているものとは異なるものが出てくることがあります。 これは文化の違いによるもので、レアリアを知らないと本当の意味で言葉が通じたことにはならないのです。逆にレアリアについての知識や理解が、外国語の上達にとても大切な役を演じているのです。 本書は、30年以上も前に書かれたものですが、いまだによく売れているようです。それはハウツー書としても、面白エピソード集としても秀逸であることに加えて、外国語を学ぶということの本質的な意味について考えさせてくれる真の教養書だからだと思います。 外国語上達法
千野栄一(著) 岩波書店 (1986) 外国語コンプレックスに悩む一学生は、どのようにして英・独・仏・チェコ語をはじめとする数々のことばをモノにしていったか。辞書・学習書の選び方、発音・語彙・会話の身につけ方、文法の面白さなど、習得のためのコツを、著者の体験と達人たちの知恵をちりばめて語る。言語学の最新の成果に裏づけられた外国語入門書の決定版。 出典:amazon 橋本 信子
同志社大学嘱託講師/関西大学非常勤講師 同志社大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。同志社大学嘱託講師、関西大学非常勤講師。政治学、ロシア東欧地域研究等を担当。2011~18年度は、大阪商業大学、流通科学大学において、初年次教育、アカデミック・ライティング、読書指導のプログラム開発に従事。共著に『アカデミック・ライティングの基礎』(晃洋書房 2017年)。 BLOG:http://chekosan.exblog.jp/ Facebook:nobuko.hashimoto.566 ⇒関西ウーマンインタビュー(アカデミック編)記事はこちら |
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