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ダイナー (平山夢明)

原作は一層面白い!

ダイナー
平山夢明(著)
藤原竜也さん主演の映画『ダイナー』。オリジナル作品だと思って見ていたのですが、あとでパンフレットを読んで原作があったと知りました。それが平山夢明さんの『ダイナー』です。

映画では玉城ティナさんが演じていたオオバ カナコの視点で書かれています。
元殺し屋 ボンベロがシェフを務める会員制のダイナー「キャンティーン」。やってくる客も全て殺し屋だ。ウェイトレスはうかうかしていると、客に殺されてしまう。実際に、これまで勤めていた8人全員が殺されてしまっていた。

新たなウエイトレスとしてこの店にやってきたオオバカナコ。30万円欲しさに危ないアルバイトに手を出し、命の危険にさらされた挙句、奴隷のように買われて「キャンティーン」に流れ着いたのだ。

カナコはボンベロに絶対的に従うよう言い渡されるが、それを守ったからといって命の保証がないことが判ったカナコはボンベロにとって大切なものを隠した。それがある限り、とにかく殺されはしないはずだ。

殺し屋専門ダイナーというのは本当で、やってくる客全て一筋縄ではいかないヤツばかり。そしてそれぞれが何か暗く重いものを胸に抱えている。ボンベロは彼らに素晴らしい料理を提供するのだった。
(平山夢明さんの『ダイナー』の出だしを私なりにまとめました)
先に映画を見てから原作を読んでみると、上手にキャスティングしてあったなぁと感心しました。

私の頭の中で、ボンベロは藤原竜也さんだし、スキンは窪田正孝さんだし、キッドは本郷奏多さんの造形で動き回っていました。

大きくイメージが違ったのはカナコ役の玉城ティナさん。玉城さんはまるでお人形さんのようでしたが、小説のカナコは最初からもっとタフでした。

それから真矢みきちゃんが演じた無礼図(ブレイズ)は原作では普通の男性でした。

あれを男装の女性に変えたのは映画としては大正解だったかも。色鮮やかさが違いますものね。

変更しているといえば、映画では拷問や殺人に関して、だいぶんソフトな表現になっています。もし小説に描かれていることを忠実に再現したら、R指定がかかったはずです。

映画は小学生でも見られるギリギリの線で、エンターテイメント作品に仕上げてありました。あれはあれで正解でしょう。

ただ、結末だけは映画より小説の方が断然いいです。

映画では「え?生きてたの?ウソー!」とちょっと空々しかった。

小説では「彼ら」が死んでしまった形跡がない、というにとどめ、「彼ら」と再び会えるかもしれないと匂わせるだけで終わっています。

その方が余韻があって私は好きだな。

それにしても、この小説は不思議な魅力を持っています。

殺し屋たちはそれぞれ多種多様な得意技(?)を持っていて、拷問や殺し方のバリエーションの豊富なことといったら、おぞましいのに思わず感心してしまいます。

そして「死」の対極にある「食」の豊かさも素晴らしい。

ボンベロが作る料理の数々は、一度実際に見てみたい、味わってみたいと思うものばかり。

グロテスクさとグルメの両輪がこの小説の魅力と言えるでしょう。

また、私はこの小説のおかげで、「ダイナー」とはハンバーガーなどを提供するアメリカ式の定食屋を意味することや、グリルとグリドルの違いを知りました。他にも「毒」や「武器」に関する豆知識が満載です。

最後に、普通の人には全く縁がない「殺し屋」の小説の中に、誰にでも当てはまる、真実を突いた一文を見つけました。

「キャンティーン」に連れてこられたカナコに対し、これまで同じように連れてこられ、ウエイトレスとして働き、殺されていった女性についてボンベロが語る言葉です。
「……知らなかった。聞いていなかった。思いも寄らなかった。みんな同じことだが、奴らは自分が無知という罪を犯したことを理解していない。無知だからこそ、奴らは地獄の蓋を開けた。

お前も同じだ。今、そんなことはわからないと言いかけた。わからなければ注意深くなれば良い。それこそ地鼠や小魚のように全身をアンテナにしてそこらに散らばっている地雷を踏まないようにして歩かなくてはならない。

堂々と歩けるのは智恵のある者だけ。そんな単純で絶対的な真理を無視して生きてきたんだ、おまえたちは」
(平山夢明さん『ダイナー』P317より引用)
耳が痛い!

人間はいつ緊急事態や大災害に巻き込まれるかわかりません。

自分一人で決断を下さなければならない事態が発生することがあるかも。

そんな時、どんな言い訳も通用しません。

日頃からアンテナを研ぎ、自分で決断できるようになっておかないと。

ボンベロが私に向かっていっているような気がしました。

ともかく、面白い小説でした。
ダイナー
平山夢明(著)
ポプラ社
ほんの出来心から携帯闇サイトのバイトに手を出したオオバカナコは、凄惨な拷問に遭遇したあげく、会員制のダイナーに使い捨てのウェイトレスとして売られてしまう。そこは、プロの殺し屋たちが束の間の憩いを求めて集う食堂だったーある日突然落ちた、奈落でのお話。 出典:楽天
profile
池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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