『サウンド・オブ・ミュージック』で学ぶ欧米文化(野口祐子)
名作の背景を知る、もう一つの味わい方。 『サウンド・オブ・ミュージック』で学ぶ欧米文化
野口祐子(編著) ミュージカル映画の傑作「サウンド・オブ・ミュージック」。素晴らしい歌と、オーストリアの美しい風景、家庭教師マリアとトラップ大佐の恋、手に汗握る脱出劇など、見どころ満載の名作です。
劇中歌の「ドレミの歌」を知らない人はいないでしょう。「エーデルワイス」「すべての山に登れ」などは音楽の教科書にも出てきますね。 1965年にジュリー・アンドリュース主演で映画化されたこの作品の歌と音楽、せりふ、視覚・聴覚的演出を6人の専門家がやさしく読み解いたのが本書です。京都府立大学主催の社会人向け公開講座の内容をもとに編まれています。 「サウンド・オブ・ミュージック」は実話にもとづくお話です。主人公のマリアとトラップ一家は実在の家族で、ナチスドイツが併合したオーストリアからアメリカに脱出しました。 現実のトラップ一家は渡米後、合唱団として人気を博します。映画の主人公であるマリア・フォン・トラップが記した回想録をもとに、1956年にドイツ映画「菩提樹」、1958年に「続・菩提樹」が公開され、1959年にはブロードウェイでミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」が上演されました。 映画版は、このブロードウェイミュージカルを下敷きにアメリカの20世紀フォックスが制作しました。そのため、舞台はオーストリアのザルツブルクですが、せりふや歌はドイツ語ではなく英語です。 言語以外にも、さまざまな変更や脚色が施されています。お話の終盤、音楽祭で一家が「エーデルワイス」を歌うと、オーストリア人の観客が唱和し、大合唱となります。まるでオーストリア人なら誰でも知っている歌のようですが、実はこの曲は完全にミュージカルのために作られたものです。 また、現実のトラップ一家は映画のように手に汗握る逃亡を企てたわけではありません。そもそも一家の住んでいたザルツブルクから徒歩でスイスに山越えというのはあり得ないルートです。 実際には、一家は自宅のすぐそばの駅から鉄道でイタリアに入り、イギリスを経て、船でアメリカに渡りました。このとき、ナチス党員であった執事のハンスが一家の逃亡を助けてくれたそうです。映画ではハンスは一家の脱出を密告する悪役として描かれています。 映画版はあくまで当時のアメリカ的な価値観、つまり、わかりやすい家族愛、祖国愛、自由の追求を反映したものとなっているのです。ただ、トラップ大佐がナチスの旗を家に掲げることを拒否したことは事実だそうです。 オーストリアでは、この映画は、長い間、受け入れられませんでした。戦後、オーストリアはドイツに併合された「被害国」という立場を採ってきました。ナチスに迎合し、ドイツとの併合を歓迎した人も多くいたことはタブーとされていました。 ウィーンでミュージカルが上演されたのも2005年になってからです。それはオーストリアが戦前戦中の歴史に向き合うようになったことを象徴していると本書は分析しています。 映画を観るだけでも十分楽しめますが、背景にある文化や歴史を知ることによって、もっと作品を味わうことができるということを教えてくれる一冊です。 『サウンド・オブ・ミュージック』で学ぶ欧米文化
野口祐子(編著) 世界思想社 楽しくもスリリングな追跡の旅。『サウンド・オブ・ミュージック』の歌とトラップ一家の物語にたどる激動の20世紀欧米社会。出典:amazon 橋本 信子
同志社大学嘱託講師/関西大学非常勤講師 同志社大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。同志社大学嘱託講師、関西大学非常勤講師。政治学、ロシア東欧地域研究等を担当。2011~18年度は、大阪商業大学、流通科学大学において、初年次教育、アカデミック・ライティング、読書指導のプログラム開発に従事。共著に『アカデミック・ライティングの基礎』(晃洋書房 2017年)。 BLOG:http://chekosan.exblog.jp/ Facebook:nobuko.hashimoto.566 ⇒関西ウーマンインタビュー(アカデミック編)記事はこちら |
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