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雪わたり(宮沢賢治)

慎ましい文章で語られる美しい心の交流

雪わたり
宮沢賢治
今年は大雪のニュースが続きましたね。

雪国で暮らす方々のタフな日常をニュースで目にするたび、寒さや大変さが伝わってきて、色々な意味で震え上がってしまうのですが、反面、同じくらい素直な反応として、文学作品に描かれる雪国の美しさに触れると、ただただ強い憧れを抱いてしまいます。

今回ご紹介するのは、宮沢賢治の作品です。

様々な絵本作家が手がけるバリエーションの多いタイトルですが、福音館書店のものは、堀内誠一さんが絵を担当しています。

堀内誠一さんは、代表作として「ぐるんぱのようちえん」をあげると、だいたい皆さん「ああ、あの!」となるのではないかなと思います。目にするだけで、温かくて懐かしくて、優しい気持ちにさせてくれます。

「雪わたり」は二部構成です。四郎とかん子が狐の紺三郎に出会う昼間のシーンと、二人が紺三郎に招待された、きつね小学校の幻燈会に参加する夜のシーン。発表当時は、2回に分けて雑誌に掲載されたそうです。

晩冬の晴れた朝、道や畑や草むらが深夜のうちにクラストすることで、どこまでも自由に歩き回って遊ぶことができる様子を雪わたりというそうです。

それは子供たちにとって心踊るシチュエーション。その上、ひょっこり小さな狐と遭遇すれば、どれほど愉快でしょうか。四郎とかん子は、狐の紺三郎と楽しいひと時を過ごします。

幻燈会の様子は、とても幻想的です。林の中の空き地を満月の光が穏やかに照らし、雪がそれを柔らかく反射して青白く浮かび上がらせます。

人を騙すと言われる狐たち。四郎とかん子は試されます。ここでは、世間でいわれることがどうあれ、相手をちゃんと自分で見極めて、真心を持って信じれば、美しい絆が芽生えるのだということが描かれています。

慎ましい文章で語られる美しい心の交流は、なめらかで澄みきった、真っ白な雪景色と重なります。堀内誠一さんの絵が絶妙な柔らかさで物語の味わいを深めていて、二人と狐の子供たちの愛らしさや健気さとともに、物語の大切なエッセンスを読み手の心に染み渡らせてくれます。

心が通い合った時の嬉しさ。互いに相手への誤解があったなら、なおさらですね。

キックキックトントン。本の中に出てくるフレーズです。読めばきっと、清く美しい心でありたいと願うためのおまじないになってくれるだろうと思います。
雪わたり
(福音館創作童話シリーズ)
宮沢賢治(著)
堀内 誠一 (イラスト)
福音館書店
profile
恒松 明美
ギャラリーリール(GALLERY RiRE)店主

小説なら1日。映画なら2時間。絵本なら、長くても15分くらいでしょうか。 それでも小説や映画に負けないくらい、心が満たされる絵本があります。 毎日、時間がたりない…。そんな、忙しく働く女性にこそ、 絵本はよきパートナーとなってくれると思います。

毎日窮屈だな。ちょっと背伸びしてばかりだったかな。 「心の凝り」が気になる時におすすめの、絵本をご紹介します。

ギャラリーリール(GALLERY RiRE)
大阪府堺市中区深井水池町3125
営業日:基本的に事前予約制(ご利用方法はHPご確認ください)
定休日:月曜・火曜+不定休
HP:https://galleryrire.theshop.jp/



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