スウィングしなけりゃ意味がない(佐藤亜紀 )
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![]() 戦争の悲惨さが際立つ スウィングしなけりゃ意味がない
佐藤 亜紀(著) タイトルから想像される通り、音楽、特にジャズがふんだんに出てくる小説です。
”舞台は第二次世界大戦下のドイツ。主人公エディは裕福な家の御曹司だ。
エディの父親は軍需会社を経営している。戦争前は仕事の都合でアメリカやイギリスに滞在していた。 商売の都合上、ナチ党員となるも、実際は”自由”の味をよく知っている人物だ。だから、自宅では美しく装った妻とともに、素敵な音楽とお酒を楽しんだりしている。 エディは表面的にはナチに尻尾を振っている父をちょっと批判的な目で見てしまう時もあるのだった。 エディの友人マックスはピアノの天才だ。堅物ではあるが、こと音楽のことになると冒険も辞さない。 ナチが「退廃音楽」だと定義しているアメリカの音楽を聴くため、レコード屋の主人にかけあい、”カウンターの下で”レコードを買ったりすることもある。 マックスがデューク・エリントンと出会ったことから、エディとマックスは、上級生たちが密かに開いているパーティに出入りすることになる。 行儀よくベートーベンを弾いてきたマックスがデューク・エリントンのように弾けるようになるには、何かが足りないのだ。 とびきりのバンド演奏やダンスに触れれば何かが変わるかもしれないではないか。 しかしどんどん戦況は悪化し、エディやマックス、パーティで出会った友人たちは運命に翻弄されていく……。 (佐藤亜紀『スウィングしなけりゃ意味がない』の前半を私なりにまとめました) この小説は前半と後半で印象が大きく変わります。前半では、戦時下のドイツで敵視されているアメリカ的なもの(のちにイギリスも)を楽しむ若者たちの様子が生き生きと描かれていて、まさに青春群像。
誰もかれもが盲目的に「ハイルヒットラー」と言っていたわけではないのだなと、小気味よく読むことができます。 が、後半になると、ユダヤ人の強制収容所連行や、戦争の悲惨さがどんどんクローズアップされてきて、胸がふさがってくるのです。 その落差が大きければ大きいほど、平和の素晴らしさが強調されるのかもしれません。 戦争で美しいものがどんどん破壊されていく様子が克明に描かれているのが本当につらかったです。 私がこの小説の中で一番好きなのは、ピアノの天才マックスが、師匠であるレンク教授と一緒に、デューク・エリントンについて研究する場面です。 レンク教授は白髪のおじいちゃん先生。さぞや堅物だろうと思いきや、マックスが闇で買ってきたデューク・エリントンのレコードを聴いて、いいじゃないか、と感動するのです。 レコードでさえ闇取引なのに、楽譜が手に入るわけもなく、二人はレコードを聴きこんで、「こうだろうか、ああだろうか」と譜面をおこし、再現しようとするんです。 でも天才マックスが、どうしてもレコードで聴いたみたいには弾けない。譜面通りに弾いているのに!…… ずっとクラシックばかり弾いてきたマックスが、ジャズに出会い、それを自分のものにしたいと努力する様子、そしてそれを一生懸命応援するおじいちゃん先生。この二人の様子を想像するだけで、にっこりしていまいます。 もうひとつ気に入ったのは、この小説の中で紹介される多くの音楽エピソードのひとつ。チャーチルが『オレとオレのカノジョ』の中の「Lambeth Walk」が大好きだったという部分です。 最初『オレとオレのカノジョ』が何なのかピンとこなかったのですが、「Lambeth Walk」って「ランベス・ウォーク」のことよね?!ってことは『ME AND MY GIRL』のことじゃない?!一気にチャーチルを身近に感じましたわ。 『スウィングしなけりゃ意味がない』だけではなく『アマポーラ』『夜も昼も』といった具合に、章題にも曲名が使われていて、内容だけではなく構成もとてもオシャレだなぁと思いました。 スウィングしなけりゃ意味がない
佐藤 亜紀(著)/KADOKAWA 1939年ナチス政権下のドイツ、ハンブルク。15歳のエディと仲間たちが熱狂しているのは頽廃音楽と呼ばれる”スウィング”だ。だが音楽と恋に彩られた彼らの青春にも、徐々に戦争が色濃く影を落としはじめる。 出典:楽天 ![]() ![]() 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 パーソナリティ千波留の『読書ダイアリー』 |
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