ビジネスマンのための「行動観察」入門(松波 晴人)
「ビジネスマン向けの本か、私には関係ないな」と思わないで! ビジネスマンのための「行動観察」入門
松波 晴人(著) ビジネスマン向けの本か、私には関係ないな、と思わないで! お仕事をする人、何かを企画する人、日常生活にぼやっとした不便や不満がある人なら誰にでもおすすめの本です。
松波さんは大阪ガス行動観察研究所長です。行動観察とは、その名のとおり、現場に行って人間の行動をつぶさに観察し、人間工学や心理学などの知見を用いてそれらの行動を分析することです。企業では現場に潜む問題点を改善する手法として用いられています。 多忙な事務所などでは業務の邪魔にならないようカメラを通して観察したり、外回りの営業マンやワーキングマザーの実態を分析するときは対象者と一日行動を共にしてじっくり観察したりと、方法も投入する人数も様々です。 いずれにしても、行動観察では、あくまで現場での行動を見ることを重視します。顧客や一般大衆の好み、傾向、ニーズを知るためには、アンケートやインタビューを取ることが多いですが、そこから出てくるのは、回答者がすでに自分で言葉にできたニーズでしかありません。当人も気づいていない潜在的なニーズや不満は言語化されていないことがあるのです。 行動観察は、なにが問題なのかを見つけるものなのです。答えを予想して、あるいは期待して観察を行うのではないのです。社会通念によるバイアス、つまり先入観や思い込みを排除することでこそ、隠れていた問題点を浮かび上がらせることができるのです。そのため、観察者は自分の価値観でもって対象者を批判的な目で見ないことが大事です。 これは教育の場でも同じだなと思いました。私も同僚の先生と合同で授業をすることがあったのですが、このとき、私と学生のかかわりのなかに、自分では気づかなかったふるまいなどを観察してもらうことができて、とても勉強になりました。 ただ、職場や日常生活に入り込んでいっての行動観察は、観察者と観察対象者の間に信頼関係がないとうまくいきません。また、入り込み過ぎて余計な干渉をしないことも大事です。 さて、本書では9つの事例が紹介されています。いずれも興味深いのですが、特に印象に残ったのは、ある業界の販促イベントの事例です。 そのイベントでは、お客さんを逃さないよう、たくさんの人員を貼りつけていました。しかし、そのせいでかえってお客さんが商品に近づかないのだということが、ある瞬間にわかりました。そこで、松波さんは、お客さんが係員に捕まらずに商品を手に取れるようなレイアウト、必要な時に対応できる人員配置を提案しました。結果は上々であったそうです。 もう一つ、スーパー銭湯の事例も面白かったです。家族連れの場合、多くはお父さんと子どもが先にお風呂からあがって女性陣を待ちます。子どもはたいてい冷たい飲み物を欲しがるのですが、自分では払えません。家まですぐだからとガマンさせられます。そこで、お父さんが飲みたいと思う飲み物を一番いい場所に設置するのです。すると、お父さんの財布が緩み、子どもの分と合わせて売り上げが伸びたのです。 どちらの事例も、言われてみればなるほどと思うことですよね。人間味を感じます。このように、行動観察は、職場で、家庭で、さまざまな場面で、問題点の改善に活かすことができるのです。 ただし、松波さんは行動観察による問題解決を行う際、もっとも大切なのは現場のモチベーションだと言います。なんのために改善するのかを納得させずに人を組織したり、動いてもらったりすることは困難です。最後は人の気持ち、やる気が大事、これも納得です。 橋本 信子
同志社大学嘱託講師/関西大学非常勤講師 同志社大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。同志社大学嘱託講師、関西大学非常勤講師。政治学、ロシア東欧地域研究等を担当。2011~18年度は、大阪商業大学、流通科学大学において、初年次教育、アカデミック・ライティング、読書指導のプログラム開発に従事。共著に『アカデミック・ライティングの基礎』(晃洋書房 2017年)。 BLOG:http://chekosan.exblog.jp/ Facebook:nobuko.hashimoto.566 ⇒関西ウーマンインタビュー(アカデミック編)記事はこちら |
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