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ごくらくちんみ(杉浦日向子)

ごくらくちんみ
杉浦 日向子(著)
杉浦日向子さん。
お名前とお顔はきっちり一致していましたが、著作を読んだことがありませんでした。

亡くなられて10年、初めて杉浦さんの作品に向き合いました。

『ごくらくちんみ』は、杉浦さんの最後の作品なんですって。

タイトル『ごくらくちんみ』は極楽珍味とも読めるし、ごく楽チン味とも読める、ことば遊びが含まれています。

紹介されている珍味は68個。
たたみいわし、とうふよう、ふなずし、みみがー、くじらベーコン、ゆべし、からすみ あたりは食べたことがなくても、見たことや聞いたことはあります。

しかし、さなぎ(?!)、うばい、いぬごろし、もうかの星、と来た日には、

「それって何ですか?」
「本当に食べ物なんですか?」
「いったいどんな色、形なんですか?」

と質問攻めにしたくなります。

ご安心めされい。

まずは最初にイラストで、そのあとは文章で、それぞれの正体や、形、色、味わいが、しっかりと書き込まれております。

しかもそれぞれ、これ以上 合うものはないだろうというお酒とともに。

杉浦さんは相当のグルメだったみたいですねぇ。

と書くと、普通の珍味紹介本だと思うでしょう?

でも、そうではないの。

『ごくらくちんみ』の面白いのは、すべて小説になっていること。

それぞれ1300文字、原稿用紙3枚ちょっとの中に、「珍味」を肴に飲む人たちと、それぞれの人生模様が盛り込まれているのです。

それはそれはお見事。

すでに病気が深刻になり、長編が書けなくなっておられたそうですが、たった1300文字の中に、さらりと書き込まれたいろいろな人生は、意外なぐらいしっかりとした余韻を残します。

小説は長ければ良いというものじゃないんだな。
それは人生も同じだな。

杉浦日向子さんの享年は46。
着物がよく似合う美人さんでしたねェ。
今ごろ天国で一献召されているのかも。

好き嫌いが多い私ではありますが、巻末に付けられた⭐︎「ごくらくちんみ」お取り寄せガイド⭐︎を活用して、杉浦さんに献杯してみたい。まずは「鮭の酒びたし」あたりから。
ごくらくちんみ
杉浦 日向子(著)
新潮社 (2006)
未婚の母を決意したタマヨが食べたいという「たたみいわし」。幼なじみの墓参の帰りに居酒屋で味わう「かつおへそ」。元放蕩息子のロクさんが慈しみつつ食す「ひょうたん」。ほかにも、「青ムロくさや」「からすみ」「ドライトマト」など68種。江戸の達人が現代人に贈る、ちんみと酒を入り口にした女と男の物語。全編自筆イラスト付き。粋でしみじみ味わい深い、著者最後の傑作掌編小説集。 出典:amazon
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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