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辞書に載る言葉はどこから探してくるのか (飯間浩明)

ワードハンティングで街を歩きまわる楽しい本

辞書に載る言葉はどこから探してくるのか?
ワードハンティングの現場から
飯間 浩明 (著)
国語辞典の編纂(へんさん)をテーマにした三浦しをんさんの小説『舟を編む』がヒットして、ここ数年、国語辞典に関する著作が次々出版されています。

この本もその一つです。著者の飯間さんは日本語学の専門家で、『三省堂国語辞典』の編纂者です。辞書に載せることばを集めて吟味し、原稿を書く仕事とはどういうものかを光文社新書の『辞書を編む』にまとめられています。そちらもおすすめですが、さらに楽しくとっつきやすいのが、今回ご紹介する本です。

私たちは辞書の記述が「正しい」日本語だと思いがちですが、辞書がことばの「正しさ」を定めているのではありません。ことばはどんどん変化していくものですから、実際の使われ方をもとに、広く普及しているか、定着しているかを判断して、辞書に掲載したり記述したりされるのですね。ですので、国語辞典は数年で改訂され、版を重ねているのです。

では国語辞典に載せることばはどうやって集めているのでしょうか。獲物を狙うハンターのようにことばを見つけに行くのだそうです。「まだ辞書に載っていないことばはないか」「意味が変わってきたことばはないか」と、ことばを探すこと自体を目的に、新聞を読んだり本を読んだりして、1ヵ月に400語前後のペースでデータを集めるそうです。『三省堂国語辞典』の初代主幹・見坊豪紀はこれを「ワードハンティング」と名付けました。

飯間さんは、それに加えて「街の中のことば」を集める必要を強く感じました。そして東京の街を歩いて拾ったいろいろなことばを紹介したのがこの本です。写真がふんだんに載っていて、「路上観察のようでもあり、東京お散歩ブックのようでもあり、日本語エッセー集のようでも」あるようなユーモアたっぷりの楽しい本になっています。ここでは、その楽しさをクイズ形式でご紹介しましょう。

流行を発信する街・秋葉原に行った飯間さん、「「トレカ・ガレキ」買取」という宣伝文句を見つけました。さて、「ガレキ」とは一体なんでしょうか。

日本橋では百貨店入り口の案内板に「催会場」と書いてありました。催しのための空間を指す名称は、百貨店によって微妙に異なるそうです。飯間さんが拾った例では、「催会場」「催事場」「催物会場」「大催場」「催場」「催物場」があるそうですが、このうち国語辞典に載っているのはどれでしょうか。そしてどう読むのでしょうか。

字だけ見ると何の変哲もないけれど、果たして何と読むのだろうということばは、他にもたくさんあります。例えば「花苗」や「月数」はどう読むと思いますか。編纂者は、それを扱っているお店の売り場担当者に訊いたりテレビのニュースでの読み方を拾ったりして、実際の読まれ方をいくつも採取し、判断するそうです。

ワードハンティングで街を歩きまわると食べ物に関係することばがたくさん見つかるそうです。この本には飯間さんが実際に食べたりお土産に買って帰ったりする記述がとても多いので、食べ歩きマップとしても楽しめます。そのなかに謎の菓子「動物ヨーチ」というものが登場します。どんなお菓子だと思いますか。そして「ヨーチ」の由来は何でしょうか。

方言が広がって全国で使われるようになることもあります。ドラマ「トリック」で仲間由紀恵さん演じる山田奈緒子の決めゼリフ、「お前たちのやったことは、全部すべてまるっとお見通しだ!」の「まるっと」も、どうやらもとは方言だったようです。さて、どこの方言だったのでしょうか。

もとは方言でも、共通語のふつうの文脈で使うようになれば国語辞典に載るようになるそうですが、その例として関西の方言である「しんどい」が載っていました。しかし、「しんどい」で表される微妙なニュアンスを他の言葉で言い換えるならなんというのだろう、と関西人の私は思いをめぐらせてしまうのでした。関西のみなさん、いかがでしょうか。

さて、どうでしょう。答えが気になってきたでしょう。そんな方は、ぜひ本書を手に取って「動物ヨーチ」を味わいながら答えを見つけてみてくださいね。
辞書に載る言葉はどこから探してくるのか?
ワードハンティングの現場から
飯間 浩明 (著)
ディスカヴァー・トゥエンティワン(2013)
「ワードハンティング」とは、獲物をねらうハンターのように、「まだ辞書に載っていないことばはないか」「意味が変わってきたことばはないか」と、ことばを探すこと。著者は、本や新聞・雑誌、テレビやインターネットから新しいことばや用例を探すのに飽き足りず、「街の中のことば」を調べようと、デジタルカメラを持ってワードハンティングに出かけた。それぞれ特徴ある24の街で、看板やポスター、値札などから生きたことばを採集、撮った写真は3000枚超に。本書ではそれらの中から選りすぐりのことばを紹介。常に変化していく日本語の最先端の様子を生き生きと伝える。 出典:amazon
profile
橋本 信子
同志社大学嘱託講師/関西大学非常勤講師

同志社大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。同志社大学嘱託講師、関西大学非常勤講師。政治学、ロシア東欧地域研究等を担当。2011~18年度は、大阪商業大学、流通科学大学において、初年次教育、アカデミック・ライティング、読書指導のプログラム開発に従事。共著に『アカデミック・ライティングの基礎』(晃洋書房 2017年)。
BLOG:http://chekosan.exblog.jp/
Facebook:nobuko.hashimoto.566
⇒関西ウーマンインタビュー(アカデミック編)記事はこちら

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