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■関西ウーマンインタビュー(クリエイター)


降矢 ちさとさん(フローリスト/Le bouton)

オーダーメイドはいつも新しいことへの挑戦

降矢 ちさとさん
フローリスト/Le bouton
濁りのある紫やピンク色の小花、細かな葉が無数に付いた柔らかな緑、意志を感じさせる動きのある枝振り。繊細で凛とした美しさのフラワーアレンジメントをつくる「Le bouton」の降矢ちさとさん。

ギフトフラワーのほか、ウエディングの装花全般やイベントディスプレイ、レッスンなど、フローリストとして幅広いお仕事をされています。

大学を卒業してから長年、お花に関わるお仕事をされていますが、もともとはお花が特別好きでも興味があったわけでもなく、好奇心からのはじまりだったと振り返ります。アルバイトをきっかけに芽生えた好奇心から、どのように自分のお仕事をつくってこられたのでしょうか。
「次はこんなことをしてみたい」という好奇心から
なぜ、今のお仕事を選ばれましたか?
大学時代にお花屋さんでアルバイトをしたことが始まりです。

当時、大学の国際文化学部に進学したものの、自分が何をしたいのかわからず、模索する中で色彩を学ぼうとスクールにも通うようになりました。

色彩が心理的に作用し、それを活用した街並みづくりがあると知って興味が湧き、アルバイトもせっかくなら色彩に関わる仕事にしようとお花屋さんを選んだんです。

もともとお花が特別好きなわけでも興味が合ったわけでもありませんでした。
好きでも興味があったわけでもなかったお花に関することを仕事にされた理由は?
アルバイトを通して「お花が好きになった」ではなく、「こんなことをしてみたい」「今度はこんなことも」という好奇心からのはじまりだったんです。最短で2年、最長で4年ほどのペースで、さまざまな職場を転々としてきました。

最初は大学時代にフラワーアレンジメントをつくるチャンスがなかったので、つくってみたいという好奇心から、チャンスに早く恵まれそうな結婚式場のフローリストに応募。新郎新婦の衣装と会場の雰囲気に合う装花を提案・調整するコーディネーターの仕事も経験しました。

次にまちのお花屋さんでもフラワーアレンジメントをつくってみたいとビジネス街のお花屋さんに転職。お花を傷めない、長持ちさせる処理の方法やお客さまとの関わり方など新しく学べたものがあったものの、フラワーアレンジメント担当者が決まっていたので、つくれず。

「つくりたい」という気持ちと、「ほかのところも見てみたい」という好奇心から、お花と雑貨等を扱うお店に転職。お花の仕入れもカタログ内であれば自由、花器もアレンジメント用品にとらわれず貝殻など工夫次第、提案して採用されれば商品化してもらえるチャンスもありました。

自分の発想を形にさせてもらえたので、自分の色が固まってきましたし、商品化をめざす過程では費用や時間、お客さまからの反応などを複合的に学ぶ機会にも。このお店を最後に独立しました。
好奇心を広げておられますが、軸は一貫して「お花」。その軸がブレることはありませんでしたか?
ブレることはなかったんです。一緒に働く人たちやお客さま、職場環境、仕事内容などに恵まれていたんだと思います。

仕事が嫌になることはなく、業界内で「こんなこともしたい」「あんなこともしてみたい」と次々に挑戦してみたいことが増えていきました。

またお店にいると、訪れる人たちが植物を楽しんでくれたり、身体の具合がよくないという方が「元気をもらいにきた」と足を運んでくれたり。

私自身、さまざまな職場で経験を積み重ねる中で、植物の必要性をじわじわと実感しました。「お花」というくくりではなく、「植物」です。色や音、香り、味、触り心地など、植物には人間の何かを突き動かす力があり、重要だと感じたから、この仕事を続けているのだとも思います。
さまざまな依頼を受ける中でコンセプトが固まった
独立するきっかけは?
最後に勤めたお店が変革期を迎えて社内の体制が変わってきたので、退職して独立という形をとりました。

正直、「何をしたいのかわからない」という渦中にいました。以前のように「こんなことをしてみたい」「そのためにこうしよう」というものがなく、一度クリアにしたいという気持ちもあったんです。

その後まもなく以前お世話になったお客さまが私個人に店舗の装花をご依頼くださったので、お受けすることに。そのほか、友人に声をかけてもらってイベント出店する機会もあったのでお花を出したり、以前友人から声をかけてもらった講師に挑戦したり。

「独立してフリーでやっていこう」というより、お声がけいただけるものをやっているうちに、その先々での出会いから派生してさまざまな仕事に恵まれ、今があります。
2009年に独立して今年で9年。現在は「オーダーメイド」をメインに展開されていますね。
ギフトフラワーやウエディングフラワーのご注文を受ける中で、その人のためだけにつくることに喜びを感じるようになってきました。

コストや効率を考えれば、デザインを固定して選んでいただくのがいいのでしょうが、オーダーを受けてつくったものは、世界にたった1つだけの想いがこもった特別な花束。

ギフトフラワーやウエディングフラワーに限らず、おうちのお庭を季節に合わせてガーデニングしたり、お客さまがお仕事で提供する商品を飾りつけるお花を提供したりすることも、お一人おひとりの想いに合わせてつくる特別なもの。

こういった形でお役に立てることがあるんだと嬉しくて、その積み重ねで「その人のためだけに」というコンセプトにつながりました。

屋号も当初はフランス語で「つぼみ」という意味の「bouton(ブトン)」としていたのですが、そこに「Le(ル)」という「1つの」という意味のある言葉を付けて「Le bouton」と改名。「その人のためだけにつくります」という思いを込めたんです。
お客さまのご要望を形にすることはとても難しいのではないですか?
インターネットからのご注文の場合はお顔も見えませんし、はじめてやりとりさせていただく方もいますから、お客さまが望むものをつくれるのかなあという不安はいつもあります。

不安を解消するためには言葉を重ねるしかないと考えていて、聞きたいことが出てきたら、その都度メールやラインで質問するようにしています。

たとえば、つくるヒントとして贈る相手とのエピソードをうかがったり、生花の場合は季節や気候によって変動がありますから「これだけはNG」というものを確認したり。

中にはイメージに近い画像を複数お送りくださる方もいて、1枚目はかわいい、2枚目は大人っぽい、3枚目はシンプルなど雰囲気や方向性が異なるものが送られてきたら、「この中でプレゼントする人の雰囲気に合うように順位を付けるとどうなりますか?」とうかがうことも。

私はオーダーをくださるお客さまの代弁者という気持ちでいますから、つくる上で聞きたいことはできる限りうかがう。こうしてお客さまと積み重ねた会話と、出来上がりの評価は比例すると感じています。

インスタグラムを始めてからはお客さまとイメージを共有しやすくなりましたし、作品の雰囲気などをわかった上でご依頼くださるのでお任せしてくださる方も多いんです。
「その人のためだけ」のものづくりは挑戦の連続
お仕事をされる中で、いつも心にある「想い」は何ですか?
植物は枯れてしまうものですが、その瞬間の美しさ、華やかさに込めて伝えたい気持ちや想いが宿っています。

メールやラインでやりとりする中で、贈る相手との出会い、関わり、気持ちをたくさん書き綴ってくださる方が多く、本当は花束に添えて「こんなふうにご依頼くださったんですよ」「こんな想いが込められているんですよ」と伝えたいくらいです。

さらには生産者さんが大事に育てくれて、市場の人たちが販売してくれて、つくったものを配達してくれる人がいて・・・と、幾人もの手を経て贈られるものでもあります。

お花をオーダーくださるお一人おひとりの想い、そこに関わるいろいろな人たちの想いも表現できたらと思っています。
近い未来、お仕事で実現したいことは何ですか?
独立するまでは「こんなことをしてみたい」「次はあんなこと」とめざして突き進んできましたが、「次は」というものはもう必要ないかなと思っています。

その人のためだけにつくるオーダーメイドはいつも新しいことへの挑戦の連続だからです。

一人ひとりの想いは異なりますから、その想いを表現するために、何を使うか、何を用意するか、どう表現するか、どんな技術が必要か・・・イメージに合うものがなければ、花器なら既製品でなくても誰かに依頼してつくってもらうこともできるなど広がっていきます。

いろんなお客さまのご要望を聞いて、一つひとつ実現していきたいですね。
profile
降矢 ちさとさん
大学卒業後、一般企業の営業職に就職。社会人経験を積むことを目的にしていたが、学生時代から持っていた「フラワーアレンジメントをつくってみたい」という好奇心からフローリストの道へ。ウエディング関連会社、フラワーショップなどを経て、2009年に独立。ギフトフラワーやウエディング装花全般、イベントディスプレイ、レッスンなど、フローリストとして幅広い仕事を手掛ける。
Le bouton
HP: http://boutonjardin.petit.cc
instagram: furuyachisato
(取材:2018年6月)
editor's note
1つのことをきっかけに、「今度はこんなことを」「あんなこともしてみたい」と好奇心という点と点をつないで、今「その人のためだけの、オーダーメイドのフラワーをつくること」を仕事にされている降矢さん。

はじまりは、自分が何をしたいのかわからず、模索する中で、少しのきっかけから始めてみたことでした。その中で周囲に関心を向け、やってみたいことを見つけて、「やってみたい」という自分の気持ちを大切に、実現のために行動されてきたことが、降矢さんの今の仕事を形づくっています。

「自分が何を好きかわからない」「自分が何をしたいのかわからない」時は、少しでもひっかかりのあることに挑戦してみること。そうすることで、降矢さんのように見えてくるものがあるのかもしれないと思いました。
小森 利絵
編集プロダクションや広告代理店などで、編集・ライティングの経験を積む。現在はフリーライターとして、人物インタビューをメインに活動。読者のココロに届く原稿作成、取材相手にとってもご自身を見つめ直す機会になるようなインタビューを心がけている。
HP: 『えんを描く』