大使が語るリトアニア(オーレリウス・ジーカス )他
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![]() 大使による広報文化外交本 大使が語るリトアニア
オーレリウス・ジーカス (著) 大使が語るジョージア 観光・歴史・文化・グルメ ティムラズ・レジャバ (著) ダヴィド・ゴギナシュヴィリ (著) 真っ青な空に、色とりどりの気球がいくつも浮かぶ夏の夕方。リトアニアと言えば、まず思い出すのが、その光景です。
リトアニアは約6.5万㎡(北海道の8割くらい)の平らな土地(一番高い山が標高294メートル!)に、大阪市(約280万人)より少し多い約288万人が暮らす、バルト海に面したヨーロッパの国です。 そのリトアニアから赴任されているオーレリウス・ジーカス駐日大使が、日本語で書かれたのが『大使が語るリトアニア』です。日本に関する著作をリトアニア語で既に3冊出版されているというジーカス大使は、大学院でパブリック・ディプロマシー(広報文化外交)を研究し、金沢大学や早稲田大学に留学されたこともある学者さんです。2022年に駐日大使に着任され、SNSなどでも積極的に情報発信をされています。 『大使が語るリトアニア』は、日本語のいろは47文字から始まるキーワードで構成されています。たとえば、「お」だと「穏やか」、「そ」は「素朴」というようにです。「穏やか」で「素朴」だけど、ここぞというときには「勇気」を発揮するのがリトアニアの人々だそうですよ。 私は2018年、2019年の夏にリトアニアに行きましたが、たしかに、ゆったりとしていて、居心地の良いところだなぁと感じました。 何を目的に行ったかといいますと、本書では「す」の項で紹介されている「杉原千畝」ゆかりの地を訪ねたのです。杉原千畝(1900-1986)は、戦時中に在リトアニア副領事として当時の臨時首都であったカウナスに赴任し、ヨーロッパを逃れようとする、主としてユダヤ系ポーランド難民に日本を通過するビザを発給したことで知られる日本の外交官です。 杉原の発給したビザが多くの人々のヨーロッパ脱出を助けたことは、1990年代ごろから知られるようになりました。カウナスの元日本領事館は現在、記念館になっていて、日本からもたくさんの方が訪問しています。 ジーカス大使もカウナス出身だそうで、本書でもカウナス推しを前面に出されています。首都ヴィリニュスとカウナスには、東京vs.大阪のような対抗心があるそうですよ。たしかにカウナスはこぢんまりとしたなかにも歴史や文化を感じさせ、子育てしやすそうな、暮らしやすそうな整った街という印象を持ちました。でも、大使自身も認められているように、ヴィリニュスもたいへん美しくて歴史の厚みを感じる街です。どちらの街もおすすめです! リトアニアは、伝統を大事にしつつ、最先端の技術を持つ国でもあります。レーザー技術やデジタル化、ライフサイエンスの先進国で、再生可能エネルギーの普及にも力を入れています。STEM分野における女性研究者の割合は57%にのぼるとか。小国にとっては優秀な人材が最も大事な資源であると語られています。日本もおおいに見習うべきところですね。 終始穏やかな語り口で書かれていますが、旧ソ連時代については、自由のないアイデンティティを否定される牢獄のような時代であったと強い口調で書かれているのが印象的でした。リトアニアはロシアによるウクライナ侵攻に対しても断固反対の姿勢を堅持しています。 さて、広報文化外交の実践と言えば、ジョージアのティムラズ・レジャバ大使ですね。実は、レジャバ大使が大使館員と共著で出版された『大使が語るジョージア』をみて、リトアニアのジーカス大使もリトアニアを紹介する本の企画を出版社に持ち込まれたのだそうです。 ジョージアのレジャバ大使は、小さい頃にご家族の仕事の関係で日本に来られ、人生の半分くらいを日本で暮らしてこられた方です。大使の表現や例えは親しみやすく、ユーモアたっぷりで、『大使が語るジョージア』は読み物としても楽しい本です。 ジョージアもコンパクトな国土(約6.9万㎡、人口は約370万人)のなかに険しい山、温泉、古い教会、海、豊かな食材、国民的画家ピロスマニ(「百万本のバラ」のモデルと言われる)といった魅力がぎゅっと詰まった国です。とりわけワインづくりは8千年前から伝わる世界最古の製法で、世界無形文化遺産にも登録されています。 大使によれば、ジョージアは、「あつい国」なのだそう。歴史的にも地理的にも「厚み」があり、「熱い」人々による「厚い」おもてなしの国という意味です。物価は安く、インターネットが整備されていて生活しやすいので、短期の観光はもちろん、中長期滞在も快適だそうですよ。俄然、行きたくなりました。大使による広報文化外交本、効果抜群ですね! 大使が語るリトアニア
オーレリウス・ジーカス (著) 星海社 (2024年) 知日派大使が語るリトアニアの奥深い世界 出典:amazon 大使が語るジョージア 観光・歴史・文化・グルメ ティムラズ・レジャバ (著) ダヴィド・ゴギナシュヴィリ (著) 星海社(2023年) 大使自ら案内する、魅惑の国ジョージアの奥深い世界! 出典:amazon ![]() 橋本 信子
大阪経済大学経営学部准教授 同志社大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。専門は政治学、ロシア東欧地域研究。2003年から初年次教育、アカデミック・ライティング、読書指導のプログラム開発にも従事。共著に『アカデミック・ライティングの基礎』(晃洋書房 2017年)。 BLOG:http://chekosan.exblog.jp/ Facebook:nobuko.hashimoto.566 ⇒関西ウーマンインタビュー(アカデミック編)記事はこちら |