<記憶の継承>ミュージアムガイド 災禍の歴史と民族の文化にふれる(皓星社編集部)
全館制覇を果たしたい 〈記憶の継承〉ミュージアムガイド
災禍の歴史と民族の文化にふれる 皓星社編集部(著) 本書は、戦争、病い、差別、公害、震災などといった苦難の歴史や、日本における少数民族の文化を語り継ぐ資料館・記念館・歴史館23館を紹介するミュージアムガイドです。
北海道から沖縄まで、全国各地を独自に取材し、豊富な写真を添えて、設立の経緯や活動方針、運営の状況、今後の展望などを紹介しています。国立や公立の館もありますが、私設のミュージアムが多いのが印象的です。 第 1章で紹介される、埼玉県東松山市の原爆の図丸木美術館は、本書で紹介されるミュージアムを代表する位置にあるようです。この館は、画家、丸木位里・俊夫妻の『原爆の図』をはじめ、第五福竜丸事件をテーマとした『焼津』や『署名』、戦争における加害を描く『南京大虐殺の図』、ユダヤ人迫害を描く『アウシュヴィッツの図』、水俣病をテーマとした作品『水俣の図』など、種々の苦難を描いた絵画を展示しています。 第2、3章では、長野、沖縄、東京、舞鶴の戦争体験を伝えるミュージアム、4章では、水俣病、満蒙開拓団をテーマとするミュージアム、5章では、アイヌや在日コリアンの歴史と文化を伝えるミュージアム、6章では、ハンセン病やホロコーストといった差別と迫害をテーマとするミュージアム、7章では、災厄(東日本大震災)の教訓と記憶を伝えるミュージアムが紹介されます。 本書で紹介されている施設のうち、いくつかは私も訪ねたことがあります。長野県の戦没学生慰霊美術館無言館、京都府の舞鶴引揚記念館(ブログに訪問記を公開)、ウトロ平和祈念館、広島県のホロコースト記念館です。 このうち、広島県福山市のホロコースト記念館には、単独で訪問したり、学生を連れて訪問したり、パネルを借り受けて大学で展示をしたり、オンラインで結んでの授業をしていただいたりと、さまざまな形で学びの機会をいただいてきました。(こちらから様子をご覧いただけます)。 ホロコースト記念館は、寄付を基に開設・運営されている民間の小規模なミュージアムですが、世界各地から集めた貴重な現物資料や数々の模型など、その充実した展示は何度見ても発見があります。講演会等も積極的に開催されています。理事長はじめスタッフの皆さんの信念と熱意にいつも感動させていただいています。 先日開館した、京都府宇治市のウトロ平和祈念館にも、学生とともに行ってきました(訪問記はこちら)。ウトロというのは、戦争中、飛行場建設のために集められた朝鮮人労働者たちが、計画中断後も暮らし続けた地区の名前です。 この地区の人々は、1987年まで上下水道が引かれないなどといった悪環境のもとで、あからさまな差別に遭ってきました。さらには、土地転売に伴って住民が立ち退きを迫られるという事態になりました。 国内外からの支援を得て、立ち退き問題は解決に至ります。この危機を乗り越えた人々の歩んできた歴史を語り継ぎ、交流の拠点となる場として新たにつくられたのが、同祈念館です。 2-3階には展示室、1階には交流スペースが設けられ、お茶をしながら図書を見たり、語り合ったりできるようにされています。私たちも、展示を見学したあと、スタッフの方に屋上から周囲の位置関係を説明していただき、1階に降りて交流スペースでコーヒーをいただきながら語り合いました。 開館直前に近くの民家(空家)が放火され、7軒が全半焼するというヘイトクライムが起きた現場も教えていただきました。現場には火災の跡がそのまま残っており、絶句しました。 こうした過ちが繰り返されないよう、同館が、正しい知識と認識を得て、生身の人々の暮らしを感じとれる場となっていくことを強く願います。 本書に収録されている施設は、どこもコロナ禍の影響で入館者が激減したそうです。来訪者の減少は、館の存在意義や活動にマイナスの影響を及ぼす恐れがあります。しかし、どの館も、この逆境を機に、オンライン講座やバーチャルツアーを充実させ、これまで訪ねてこれなかった人たちにも広く活動を発信するなど、工夫と努力を重ねておられるようです。 私も、この夏は、本書で紹介された館をいくつか回ろうと計画しています。そして、数年内には、全館制覇を果たしたいと思います。 〈記憶の継承〉ミュージアムガイド
災禍の歴史と民族の文化にふれる 皓星社編集部(著) 皓星社 (2022/3/25) 記憶の風化に抗い、苦難の歴史と民族の文化を伝える23の施設を紹介 出典:amazon 橋本 信子
大阪経済大学経営学部准教授 同志社大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。専門は政治学、ロシア東欧地域研究。2003年から初年次教育、アカデミック・ライティング、読書指導のプログラム開発にも従事。共著に『アカデミック・ライティングの基礎』(晃洋書房 2017年)。 BLOG:http://chekosan.exblog.jp/ Facebook:nobuko.hashimoto.566 ⇒関西ウーマンインタビュー(アカデミック編)記事はこちら |