障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。(姫路まさのり)
働きたいという希望を実現するために 障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。
ソーシャルファームという希望 姫路 まさのり (著) 日本の法律では、障がい者の雇用義務が定められています。しかし対象となる企業のうち、法定雇用率を達成しているのは49.5%と約半数程度です。また障がい者を一人も雇用していない企業は57.8%にのぼるといいます(2018年6月時点)。
そこで障がい者の多くは作業所で働くことになります。しかし、そこでは毎日懸命に働いても月1~2万円という低賃金(工賃)が常態化しています。 本書で紹介されている4つの施設は、障がい者に最低賃金以上の給与を保障し、一般の企業と競争できる事業を展開するソーシャルファーム(social farm,社会的企業)や、障がい者の表現活動を取り入れて成功している事例です。 京都府舞鶴市の「ほのぼの屋」さんは、2002年にオープンした本格フレンチレストランです。障がい者が働いているということを売りにしているわけではなく、そのおいしさと居心地の良さで、予約の取れないレストランになりました。 ほのぼの屋の前身の作業所は古本店を運営していました。施設長の西澤さんは、「月5万円の給料を実現させよう」と、古書店の事業のほかに、いくつもの地元企業に声をかけて仕事を回してもらっていました。そうやって収入が増えると作業所の人々の世界が変わってきたと言います。 給料が4~5万円あれば、障がい者年金と合わせて、収入が月10万円を超えます。そうすると身だしなみや清潔感に気を付けるようになり、外に飲みに出かけるなど生活の幅が広がっていきます。給料が8万円を超えると、一般就労へのチャレンジや結婚など、将来の夢や人生の展望を語るようになりました。そして10万円を超えると、働く態度が大きく変わり、自分はお客様のために働くのだという意識と責任感が芽生えてきたといいます。 そこで、西澤さんたちは、自分たちの店を持ちたいという夢に向けて始動します。つくるなら一流のレストランをつくろうと計画を進めました。ところが最初の建設予定地では住民から反対の声が上がり、不便な場所に変更せざるを得なくなりました。 変更後の予定地では、地域への説明をていねいに繰り返し、住民を食事会に招くなど、地域との折衝に時間を費やしました。そうした努力が実って、ほのぼの屋は、開店時から大繁盛を続けています。変更先の景色の良さも結果的にはプラスに働いたようです。 滋賀県大津市のがんばカンパニーは、オーガニック素材のクッキーが人気の製菓工場です。こちらでは、「生活の転落を防ぐ事」を採用の優先事項としています。障がい者手帳の有無にかかわらず、鬱などの疾患者、生活保護者、母子家庭の母親なども採用しています。 がんばカンパニーの給与は、6~24万円と、全国の障がい者施設の平均2万1175円を大きく上回っています。それぞれの向き不向きを見極めて、「できること」でそれぞれがんばる、適材適所とチームワークを重視しています。 自分たちの商品に共感してくれる販売先と取引するというスタンスで、年商1億円以上の規模を維持しているとのことです。 滋賀県近江八幡市のボーダレス・アートミュージアムNO-MAは、社会福祉法人GLOWが運営する2004年設立の美術館です。主に、障害のある人たちによる造形表現や現代アート(アール・ブリュット)などを紹介しています。 日本では、まだ障がい者のアートがほとんど認知されていなかった2006年、NO-MAの代表者は、スイスのアール・ブリュット・コレクションのある美術館を突然訪問し、提携をとりつけます。ヨーロッパでNO-MAの作品が紹介されたことで、逆輸入的に日本でも巡回展が開催されました。 NO-MAの成功が影響して、国も「障害者の芸術活動支援モデル事業」を2014年から実施、日本各地にアール・ブリュットの専門拠点が設置されました。作品や、作品を加工した商品が販売される動きも盛んになっています。 最後の事例は、岐阜県多治見市の社会福祉法人AJU自立の家の取り組みです。こちらでは、ワイナリー運営やパソコン業務を手掛けています。ワイナリーには、ワインショップやカフェも併設していますが、やはり福祉を前面に出さず、あくまで商品そのものの質で勝負しています。 本書の事例のようなソーシャルファームは、ヨーロッパには1万社以上あるそうですが、日本にはまだ100社ほどのようです。2008年に発足した任意団体「ソーシャルファームジャパン」では、全国に1700余りある各市町村に1か所ずつ、2千社ほど作ることを目標に活動を継続しているそうです。 ※参考サイト:「ビッグインタビュー:社会福祉法人恩賜財団済生会理事長・ソーシャルファームジャパン 理事長 炭谷茂氏」(柔整ホットニュース2020年11月1日記事) https://www.jusei-news.com/kaigo/topics/2020/11/20201101.html 障がい者だからって、稼ぎがないと思うなよ。
ソーシャルファームという希望 姫路 まさのり (著) 新潮社 (2020) IT、ワイン醸造にアートetc.予約の取れないフレンチレストラン、年商2億円、奇跡のクッキー工場。「稼いで自立」の成功例を紹介する、とっても大事な「お金」の話。 出典:amazon 橋本 信子
同志社大学嘱託講師/関西大学非常勤講師 同志社大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。同志社大学嘱託講師、関西大学非常勤講師。政治学、ロシア東欧地域研究等を担当。2011~18年度は、大阪商業大学、流通科学大学において、初年次教育、アカデミック・ライティング、読書指導のプログラム開発に従事。共著に『アカデミック・ライティングの基礎』(晃洋書房 2017年)。 BLOG:http://chekosan.exblog.jp/ Facebook:nobuko.hashimoto.566 ⇒関西ウーマンインタビュー(アカデミック編)記事はこちら |