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ある奴隷少女に起こった出来事(ハリエット・ジェイコブズ)

アメリカ奴隷制度の罪深さ

ある奴隷少女に起こった出来事
ハリエット・ジェイコブズ(著)
堀越ゆき(訳)
これは題名の通り奴隷として生まれた少女のお話です。驚くことに小説ではなく全てが本当に起こった事実。

読み終えてその実態を知った衝撃と共にアメリカ奴隷制度の罪深さを考えさせられました。
(本文よりp.19)
わたしは奴隷として生まれた。だが、六年間の幸せな子ども時代が終わるまで、そのことを知らなかった。…

一家全員が奴隷だったが、わたしは両親のとても深い愛情で守られていたので、自分が所有者から両親に預けられた、ただの「商品」で、いつなんどき両親から引き離され、どこかに売られてしまうかもしれない―そんな運命だったとは夢にも思わなかった。
少女が6歳の時、母親が亡くなり白人の「お嬢さん」の奴隷となります。 ここでの暮らしは幸せでお嬢さんの遊び相手として過ごし、読み書きもその頃に習いました。

6年後お嬢さんが急死し、その遺言でドクター・フリントの幼い娘の所有物となります。

フリント家は少女に冷たくあたり、その態度はさらにエスカレートしていきます。その後少女は耐え難い残酷な運命に身を置くことになるのです。
(本文よりp.29)
多くの南部婦人の例にもれず、フリント夫人は完全に無気力な女だった。家事を取りしきる意欲はないが、気性だけは相当厳しく、奴隷の女を鞭で打たせ、自分は安楽椅子に腰かけたまま、一打ちごとに血が流れはじめるまで、平然とそれをながめていた。
(本文よりp.36.43.44)
ドクター・フリントは、町に立派な屋敷を構え、ほかにも農場をいくつも持っていた。五〇人ほどの奴隷を有していたが、それでも毎年奴隷を増やしていた。

フリント家での最初の数年間は、ご主人の子どもたちと同様に、子どもらしいわがままも多少は許されていた。…しかし、わたしはやがて一五歳になり――奴隷少女の悲しい青春がはじまろうとしていた。

…ドクター・フリントはずる賢こい男で、自分の目的を達成するためなら手段を選ばず、どんな卑劣なことでもやった。

…奴隷の少女である限り、人間のかたちをした悪魔のような大人から加えられる辱しめ、暴力、死から、わたしたちを守ってくれる法律など、どこにもなかった。

夫が自宅の庭で奴隷に不埒な行為を行っているというのに、夫人は奴隷を守るどころか、嫉妬と怒りの矛先を向けた。奴隷制から生まれる、品位の堕落、悪事、不道徳について、どんな言葉でもわたしは言い表すことができない。
この文章をお読みいただくだけで少女の置かれた状況が分かると思います。 「所有者」には同じ人間という概念は全くありません。

肌の色でこれほど違った境遇になってしまうのか。卑劣な行為が平然と行われていた社会がありました。

少女はこの後ある白人の愛人となり、二人の子供を出産します。 そして、ドクター・フリントからの変質的な執着は彼女の子供にまで及ぶのです。

魔の手から逃れるため彼女は一人、ある屋敷の屋根裏部屋に身を隠します。 立つこともできない狭い空間、劣悪な環境でなんと七年も過ごすのです。

この本を読み終えてなぜこんなに酷いことが起こったのか疑問に思いました。

アメリカの奴隷制度については昔見た映画「風と共に去りぬ」で主人公のビビアン・リーを世話する女奴隷が思い出されます。

そこからはこのような実態は見えませんでした。日本にはない制度なのでそれほど関心もなく、なんとなく知ってる程度でした。

「所有者」は自分のストレスを虐待という形で発散しているのか?
冷静に客観視できない状況があったのか?
人間の心の弱さなのか?


アメリカ奴隷制度の根深さを目の当たりにしました。


最後にこの本を翻訳した堀越ゆき氏は新幹線移動中、時間つぶしにネットで検索していた時、この本に出会ったそうです。

あまりに衝撃的で完読し、本職ではないが使命を感じて出版されました。

この偶然と勇気ある挑戦が無知な私の心に大きな投げかけをしてくれました。

コラムでは最後まで書ききれませんが少女は辛い時期を経て、黒人活動家となり娘と共に奴隷解放のための学校を設立します。

「思い出すのも辛い過去などを書きたくなかった」。しかし後世に残す必要性を感じて執筆したと残しています。

偶然目に留まった本でしたが、彼女の強い気持ちが120年の時を経て私を引き寄せたと思います。

人生をどう生きるか。

また考えるきっかけとなりました。
ある奴隷少女に起こった出来事
ハリエット・アン ジェイコブズ (著)
堀越 ゆき (訳)
新潮社
好色な医師フリントの奴隷となった美少女、リンダ。卑劣な虐待に苦しむ彼女は決意した。自由を掴むため、他の白人男性の子を身篭ることを―。奴隷制の真実を知的な文章で綴った本書は、小説と誤認され一度は忘れ去られる。しかし126年後、実話と証明されるやいなや米国でベストセラーに。人間の残虐性に不屈の精神で抗い続け、現代を遙かに凌ぐ“格差”の闇を打ち破った究極の魂の物語。 出典:amazon
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植木 美帆
チェリスト

兵庫県出身。チェリスト。大阪音楽大学音楽学部卒業。同大学教育助手を経てドイツ、ミュンヘンに留学。帰国後は演奏活動と共に、大阪音楽大学音楽院の講師として後進の指導にあたっている。「クラシックをより身近に!」との思いより、自らの言葉で語りかけるコンサートは多くの反響を呼んでいる。
Ave Maria
Favorite Cello Collection

チェリスト植木美帆のファーストアルバム。 クラッシックの名曲からジャズのスタンダードナンバーまで全10曲を収録。 深く響くチェロの音色がひとつの物語を紡ぎ出す。 これまでにないジャンルの枠を超えた魅力あふれる1枚。 ⇒Amazon
HP:http://www.mihoueki.com
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