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観光亡国論(アレックス・カー)

「日本が悲鳴を上げている」!?

観光亡国論
アレックス・カー (著), 清野 由美 (著)
世界中で観光ブームです。日本を訪れる外国人旅行者数も、2013年に1千万人を突破し、2018年には3,119万人を超えました。訪日外国人旅行(インバウンド)客がもたらす経済効果も数年で急上昇しました。

日本は2003年に観光立国を目指すと宣言しました。日本経済を支えてきた製造業が生産拠点を海外移転しているなかで、観光業はまだまだ伸びる余地のある産業として期待されたのです。

ここ数年の急激な観光客の増加は、その期待を上回るものでした。その一方で観光地では、受け入れ態勢が整わないところに大きなうねりが押し寄せてきて、大わらわしているという状況です。とりわけ京都における観光客過剰の状況とその対策についての報道はよく目にします。

人気の観光地では、急激な旅行客の増加によって、さまざまな問題が生じています。混雑、渋滞、騒音、ゴミの不始末などのマナー違反、宿泊施設や民泊の急増に伴う不動産価格の上昇などが地元民の生活を脅かしているのです。

このようにキャパシティを越えて観光客が殺到し、地域の生活の質を低下させるに至る状況をオーバーツーリズムと呼びます。「観光公害」という言葉も見られるようになりました。

本書の著者アレックス・カーさんは、このような状況に対して、日本が観光立国どころか「観光亡国」になりかねないと危機感を覚え、どのように対策すべきかを本書で提言しています。

カーさんは観光立国という方針自体に反対するわけではありません。むしろ観光振興、促進に積極的にかかわってきた人です。アメリカ生まれの東洋文化研究者で、1970年代から京都の亀岡に居を構え、日本の文化や建築、景観に関する著書を出版されています。

地域再生コンサルタントとしても活動しています。京都や徳島県祖谷(いや)では、古い町家や民家がまだ見向きもされていなかったころから、その価値を見抜き、質の高い宿泊施設に再生するプロジェクトを手掛けてきました。

日本の建築や景観の美醜を知り尽くしているカーさんは、安っぽくて稚拙な観光のありかたを容赦なく批判します。そして、具体例を出して、どのような解決策があり得るかを示しています。

例えば観光客の総量規制。これには、入場制限を課す、予約制にする、入場料を上げる(上げた入場料は維持費に回す)などの方策があります。本当にそこに行きたい人だけに、その場所の価値に見合った対価を払って来てもらえばよいという考えかたです。

そうした規制によって不便になる人が出るかもしれません。その場合は、例えば地元の人には特別パスを交付する、学生には割引を設けるなど、例外枠を設けて融通を利かせるのです。

オーバーキャパシティは受け入れる車の量とダイレクトにつながっているので、車は観光の中心部から離れた場所までしか入れないように制限する、駐車場からは歩いてもらう、目抜き通りを歩行者天国にしてしまう、さらには、大きく景観を損ねる高速道路を撤去してしまうという策をとっている地域が実際に外国ではあるそうです!

お客さんに便利なように近くまで車で来られるようにするという車優先の方策が、果たして本当に地域の利益になるのか。お客さんにそぞろ歩きを楽しんでもらう方が、お客さんにとっても観光地や建造物の保全にとってもプラスの作用をもたらすことに気づくことが必要だとカーさんは言います。

観光客にマナーを守らせようとして乱立する看板や掲示物、そしてスピーカーからのアナウンスが、景観を汚し、静寂を乱しています。しかしそれらが観光客のふるまいを正す効果はそれほど高くないと、カーさんは指摘します。こういった注意喚起は、景観を邪魔しないように、数、デザイン、場所を考えるべきです。

実際に伊勢神宮周辺では、そういった配慮がなされています。だからといって参拝客のマナーが悪いなどということはないとのこと。ちなみに景観を台無しにする看板や公共物の具体例については、『ニッポン景観論』(集英社新書ヴィジュアル版)で写真たっぷり皮肉たっぷりに論じられているので、ぜひご一読を!

観光業を重要な産業として育成しながら、受け入れる地域の生活の質や文化を損なわないようにするためには、観光客にたくさん来てもらえばよいという発想は捨てる必要があるようです。

知的好奇心をもち、自然や文化を愛し、旅先のことを大切に思う人に対して「質の高いツーリズム」を提供しようとする方向へシフトしていくことが、観光亡国に陥らないための解決策なのです。
観光亡国論
アレックス・カー (著), 清野 由美 (著)
中公新書ラクレ(2019/3)
右肩上がりで増加する訪日外国人観光客。京都をはじめとする観光地へキャパシティを超える観光客が殺到し、交通や景観、住環境などでトラブルが続発する状況を前に、東洋文化研究者のアレックス・カー氏は「かつての工業公害と同じ」と指摘する。本書はその危機感を起点に世界の事例を盛り込み、ジャーナリスト・清野由美氏とともに建設的な解決策を検討する一冊。真の観光立国を果たすべく、目の前の観光公害を乗り越えよ! 出典:amazon
profile
橋本 信子
同志社大学嘱託講師/関西大学非常勤講師

同志社大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。同志社大学嘱託講師、関西大学非常勤講師。政治学、ロシア東欧地域研究等を担当。2011~18年度は、大阪商業大学、流通科学大学において、初年次教育、アカデミック・ライティング、読書指導のプログラム開発に従事。共著に『アカデミック・ライティングの基礎』(晃洋書房 2017年)。
BLOG:http://chekosan.exblog.jp/
Facebook:nobuko.hashimoto.566
⇒関西ウーマンインタビュー(アカデミック編)記事はこちら



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