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おいしいロシア(シベリカ子)

食は深いところに記憶を残してくれる

おいしいロシア
シベリカ子 (著)
ロシア人男性と結婚し、一年間サンクトペテルブルクに住んだシベリカ子さんによる、ロシア料理とロシアの魅力がふんだんに盛り込まれたコミックエッセイです。

ボルシチにビーフストロガノフ、ブリヌイ(パンケーキ)にペリメニ(餃子)、クワスにピロシキ…

カバーイラストにずらりと並んだおいしそうなロシア料理は、すべて本文中に出てくるもの。リカ子さん流レシピもあるので、お料理の再現も可能です。

出発前には「くらい、さむい、こわい、おそロシア」というイメージをもっていたリカ子さんですが、「食」から近づいてみることで、一年後には、このままずっと住めそうと思うくらいロシアになじみます。

ロシア人の大好きな食材、料理、ダーチャ(夏の家)での保存食づくり、親せきや友達とのおつきあいなど、ロシアの人々の暮らしがほのぼのと描かれます。

玄関で靴を脱ぐとか、冷蔵庫にメモをマグネットで貼っているとか、壁にかかった料理の写真のカレンダーといった描写に、あたたかな現実感がにじんでいます。

私が語学研修でロシアに行ったのは、30年くらい前のソ連時代末期。外国人が勝手に動きまわることは許されず、1か月半ほどの滞在は、すべて外国人専用ホテル。3食すべてホテル内のレストランでした。

そんなわけで、私はロシアでは家庭料理やスナック的なものはほとんど食べることがなかったのですが、レストランではロシア人がこよなく愛する黒パンを食べることができました。はじめは酸っぱくて食べづらく感じたのですが、慣れるとクセになる味です。名物のキャビアをたっぷりのせて食べました。いいものだったのかどうかはわかりませんが(笑) 

リカ子さんが試行錯誤して作っていたブリヌイ(クレープのような薄いパンケーキ)は、1990年代半ば、チェコ在住のロシア人女性にごちそうしてもらいました。

おなべをひっくり返してお皿に盛ったブリヌイは山のようにうずたかく積みあがりました。フライパンで薄く焼いて作るものなので、冷めないよう、ひからびないように、深いお鍋に入れていたのでしょうか。一枚一枚は薄いものなので、いったい何十枚焼いてくれたのだろうと感激しました。

本書のカバーイラスト左下の絵を見たときに、ああやっぱりロシアではブリヌイをこのように積み上げるのだなと懐かしく思い出しました。

本書を読みながら、そのようなはるか昔の思い出がいくつかよみがえってきました。やはり食は人生の基本、深いところに記憶を残してくれるように思います。
おいしいロシア
シベリカ子 (著)
イースト・プレス (2016)
日本から、ロシア人の夫と一緒にやって来たロシアの地。1年間の生活を満喫しようと、「食」から知っていくことに。近くて遠い隣国での、おいしくて楽しいコミックエッセイ。 出典:amazon
profile
橋本 信子
同志社大学嘱託講師/関西大学非常勤講師

同志社大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。同志社大学嘱託講師、関西大学非常勤講師。政治学、ロシア東欧地域研究等を担当。2011~18年度は、大阪商業大学、流通科学大学において、初年次教育、アカデミック・ライティング、読書指導のプログラム開発に従事。共著に『アカデミック・ライティングの基礎』(晃洋書房 2017年)。
BLOG:http://chekosan.exblog.jp/
Facebook:nobuko.hashimoto.566
⇒関西ウーマンインタビュー(アカデミック編)記事はこちら



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