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ぐるぐる博物館(三浦しをん)

偶然の出会いで世界が広がる

ぐるぐる博物館
三浦しをん(著)
「博物館が好きだ。旅先で博物館を発見したら、とりあえず入ってみる」という三浦しをんさんによる博物館案内です。

三浦しをんといえば、ヒット作を多数生み出している人気作家。国語辞典編纂者が主人公の『舟を編む』、山林で林業見習いをする青年が主人公の『神去なあなあ日常』のように、自分の仕事に誇りと愛情を持って向き合う人たちを魅力的に描き出す達人です。

本書もそう。学芸員や案内の人たちとざっくばらんに会話を進めながら、博物館と彼らの魅力を引き出し、紹介しています。

博物館の選択基準は、「個人的な興味のおもむくまま」。

本書を読むときには、気になる博物館の章だけを拾い読みしても面白いですが、三浦さんの関心が次々と広がってゆく博物館サーフィンならぬ博物館ぐるぐるの過程が興味深いので、できれば初めから順を追って読むことをおすすめします。

はじめに茅野市の尖石縄文考古館で土器を見て「縄文時代について少々学んだ」三浦さんは、「……そもそも、人類ってなんなんだろうか」と、ふと疑問を抱いて、次に国立科学博物館の「人類の進化コーナー」で学芸員さんからじっくりとお話を聞きます。

そのあと龍谷ミュージアム(京都市)の見学をした三浦さんは、3つの館の見学を通して歴史的にも科学的にも文化的にも私たちにとって身近な存在であるとわかった石について学ぶべく、富士宮市にある奇石博物館を訪れます。

奇石博物館は私設の博物館です。館名は、江戸時代に石愛好家が結成した研究会「奇石会」に由来します。なんと平賀源内もメンバーだったそうですよ。

あくまで自然にできた石を収集、分類、展示する施設ですが、石や地学への関心を高められるよう、笑いを誘う演出や子どもが喜ぶイベントなどもされているそうです。

この章だけで、5回も繰り返されるフレーズは、「石に魅せられたひとの情熱、おそるべし!」

さて、第5~7館(章)では少し趣きが変わります。

大牟田市の石炭産業科学館、雲仙岳災害記念館は、地域社会の経験を学び、それらに思いをはせ、次代へと繋げる博物館です。

石炭産業科学館は、地域に点在する三井炭鉱の遺構とともに、石炭産業の繁栄と負の側面をいまに伝えています。

雲仙岳災害記念館は、噴火による火砕流の発生という自然災害の圧倒的な力を後世に伝え教訓とするための施設です。記念館の近くには、土石流に埋もれた家屋や、火砕流にあった小学校校舎もそのまま残されています。

石ノ森萬画館は、漫画家石ノ森章太郎氏の冒険心に満ちた創造の世界の楽しさを供するとともに、石巻市の東日本大震災からの復活のシンボルという側面もあわせもつ施設です。

三浦さんは、石ノ森萬画館を見学したあと、日本製紙石巻工場も訪問されています。書評『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている』でご紹介した、東日本大震災で被災しながら短期間で操業を再開した工場です。作家で「紙フェチ」の三浦さん、感無量だったようです。

第8~10館(章)は、あるテーマや「もの」に特化した博物館のシリーズです。東京飯田橋にある「風俗資料館」、福井県鯖江市の「めがねミュージアム」、ボタン会社が運営する「ボタンの博物館」(取材当時は大阪、現在は東京に移転)です。

いずれも特化しているだけに濃い! 普段、特別な注意を向けることがない「もの」にも、コレクターや専門家がいて、情熱をもって収集されていることに目を開かされます。

日本経済新聞の文化面にも、超がつくほどマニアックな「もの」に注目して収集・展示している人がしばしば紹介されていて、いつも驚嘆しながら読んでいます。

そのように長年にわたって、地道に、情熱を持って、何かに力を注ぐ人がいるから、私たちの社会や文化は多様で豊かで実り多いものになるのですね。

なかには、三浦さんが言うように「どうしてこのテーマを選びなすった?」と謎が謎を呼ぶものもあったり、「ちょっと変(失敬)な施設」になったりすることもあるようですが。

最後に、あとがきから、三浦さんらしい、愛と敬意とユーモアに満ちた一節をご紹介します。
博物館は、「無機質な箱」なんかじゃないんだなと、改めて実感した旅だった。人間の好奇心と、最新の研究成果と、知恵や知識と、あとなんか常軌を逸した(失敬)蒐集癖や執着や愛。そういった諸々の分厚い蓄積を、楽しく我々に示してくれるのが博物館なのだ。金とか地位とか名誉とかではない、「なにか」のために生きる。それが生まれて死ぬ意味なんじゃあるまいか(以下略)
計画を立てて訪ねるだけでなく、「旅先で発見したら、とりあえず入ってみる」、その偶然の出会いで世界が広がる、そんな楽しみ方もいいですね。
ぐるぐる博物館
三浦しをん(著)
実業之日本社 (2017)
人類史の最前線から、秘宝館まで、個性あふれる博物館を探検!書き下ろし「ぐるぐる寄り道編」も収録!好奇心とユーモア全開、胸躍るルポエッセイ。 出典:amazon
profile
橋本 信子
同志社大学嘱託講師/関西大学非常勤講師

同志社大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。同志社大学嘱託講師、関西大学非常勤講師。政治学、ロシア東欧地域研究等を担当。2011~18年度は、大阪商業大学、流通科学大学において、初年次教育、アカデミック・ライティング、読書指導のプログラム開発に従事。共著に『アカデミック・ライティングの基礎』(晃洋書房 2017年)。
BLOG:http://chekosan.exblog.jp/
Facebook:nobuko.hashimoto.566
⇒関西ウーマンインタビュー(アカデミック編)記事はこちら

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