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段ボールはたからもの(島津冬樹)

あなたも旅行先で拾わずにいられない!

段ボールはたからもの
島津冬樹(著)
本屋さんの旅のコーナーが好きです。旅行の予定がないときでも、ふらっと立ち寄ってガイドブックや旅行記の棚を物色します。

先日も旅のコーナーを何とはなしに見ていると、一冊の本が目に止まりました。

『段ボールはたからもの』。

「女子旅」とか、「○○のおいしいカフェめぐり」といったお洒落な本のなかに、段ボールの本? カバーも段ボール色です。これは私を呼んでいる!

「はじめに」の冒頭を読んで、その勘が当たっていることを確信しました。

「段ボールをもらって生活をしています」。

著者の島津冬樹さんは、「道端に捨てられた段ボールを拾ったり、市場に行ってお願いをして」譲り受けた世界各国の段ボールを使って財布をつくり、販売しているのです。

島津さんが段ボールで財布を作り始めたのは、美大生のときでした。財布が壊れて、たまたま手近にあった段ボールで手作りしてみたのがきっかけでした。

意外と丈夫で長持ちし、使いやすく、まわりの評判もいい。人から喜ばれるものを作りたいと、島津さんは卒業後も段ボール財布を作るプロジェクトを続けてきました。

その活動は、リサイクルではなく「アップサイクル」と呼ばれるようになりました。アップサイクルとは、「元の製品よりも次元・価値の高い製品に作り変えること」です。

でも、ご本人は、自分で「段ボールアーティスト」を名乗るのはおこがましいと思っているとのこと。段ボール財布は、それを狙っていたわけではなく、偶然生まれたもの。島津さんはとにかく、段ボール、それも新品ではなく使い古しのものが好きで好きでたまらないそうなのです。

段ボールのどこに惹かれるのか。島津さんによると、段ボールにはそれぞれにストーリーがあるのだそうです。どこから来たのか、どんな人に運ばれたのか、どんな使われ方をしていたのか。

また、ご当地ならではの段ボールからは、さまざまなことが見えてくるそうです。その国の商慣習、経済力、モノの流れ、などなど。

例えば、フィリピンといえばバナナですが、島津さんはフィリピンでバナナの段ボールを手に入れることができませんでした。なぜか。フィリピンではバナナは麻袋に詰めて流通しているからです。

熟れる前のバナナは皮がしっかりしていて潰れにくいため、袋でよいのです。麻袋は何度も繰り返し使えて効率的です。日本の市場で見るバナナの箱は、外国に輸出する高級品のためのものなのです。

似た状況はエチオピアでもありました。エチオピアは世界最貧国のひとつ。ここでは滞在中にわずか4箱しか目撃できなかったそうです。

エチオピアの農産物の多くは外貨獲得のため輸出されます。ここでも段ボールは輸出用の「贅沢品」にしか使われないのです。

このように、日本などでは大量に消費される段ボールですが、ところ変われば価値も使われ方も大きく異なるのです。段ボールは、文字やデザインの違いだけでなく、その土地の商いや生活を映し出してもいるのですね。

そんなお国事情が、島津さんの段ボール愛と、段ボールを入手するまでの苦労話とともに語られます。

本書の冒頭には、島津さんの段ボール財布作品の写真、段ボール財布の作り方イラストが掲載されています。各章には訪問先で入手した段ボールの写真もありますよ。

これを読むと、あなたも旅行先で拾わずにいられない! …というには、段ボールはちょっとかさばって無理かもしれませんが、普段見過ごしているものを観察することの面白さに目覚めることは請け合いです。

なお、2018年12月には、島津さんの活動を記録したドキュメンタリー映画「旅するダンボール」が公開されました。
段ボールはたからもの
島津冬樹(著)
柏書房(2018年)
不要なものから大切なものへ。世界の街角で捨てられた段ボールを拾い集め、かわいくてかっこいい財布をつくる。地球が悲鳴を上げている今、わたしにもできるアップサイクルのヒントがここに。出典:amazon
profile
橋本 信子
同志社大学嘱託講師/関西大学非常勤講師

同志社大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。同志社大学嘱託講師、関西大学非常勤講師。政治学、ロシア東欧地域研究等を担当。2011~18年度は、大阪商業大学、流通科学大学において、初年次教育、アカデミック・ライティング、読書指導のプログラム開発に従事。共著に『アカデミック・ライティングの基礎』(晃洋書房 2017年)。
BLOG:http://chekosan.exblog.jp/
Facebook:nobuko.hashimoto.566
⇒関西ウーマンインタビュー(アカデミック編)記事はこちら



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