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白い巨塔(山崎豊子)

誰の心にも住んでいる天使と悪魔

白い巨塔
山崎 豊子(著)
国立大学の医学部を舞台に起こる、権力闘争を描いた作品です。

人間の欲望、表と裏があまりにリアルで、普段、気が付かないふりをしている、見たくない部分を見せられているかのようです。

誰の心にも住んでいる天使と悪魔。

物語の中に社会の縮図を見ながら、何を信じて、どこへ向かって行けばいいのか、最終的に自分はどう生きるのか、生きたいのかを考えさせられました。

主人公は、第一外科助教授の財前五郎。

マスコミに騒がれるほど華やかな経歴を持ち、自信家で傲慢な一面もありますが、誰もが実力を認める、まさに次期教授にふさわしい外科医です。

しかし、上司である第一外科の東教授は彼の横柄なところや、人徳のなさを危惧し、強力な対立候補を立てます。

しかし、「何としても、どんな手を使っても教授になってみせる」と、財前は、教授の席を狙ってあらゆる手段を画策します。

財前派と東派の票取り合戦。

決選投票が近づくにつれ、それは恥も外聞も捨てたなりふり構わぬ形相となり、欲望に突き進む財前助教授と、ある意味悟りの境地に達する東教授の人間像が浮き彫りになります。

(本文よりp.264-)
東は暫く黙り込んでいたが、やがて妻の言葉に頷きながら、人事なんてものは、所詮、こんなつまらぬ些細なことで決まるものなんだ、何もこの場合だけじゃない、他の多くの場合だって、大なり小なり、こうした要素を持っている、人間が人間の能力を査定し、一人の人間の生涯をきめる人事そのものが、突き詰めてみれば必ずしも妥当ではない、惨酷な、そして滑稽な人間喜劇なんだ―、自分の心に向って弁解するように云うと、東は、残っているコップの水を、ぐうっと一気に飲み干した。
まるでシェイクスピアを読んでいるようです。

イギリスでは、子供が社会に出るまでに「人間を知る」ために、シェイクスピアを読ませると聞いたのを思い出しました。

音楽家というのは練習中心の生活になりがちです。一人っきりの時間が多く、人と触れ合う時間が少ないこともあります。

昔、恩師が言ったのですが、

「人に会うと疲れるからねぇ…」

それは、私たち音楽家が一日の大部分を練習に費やす上で、どのように社会とかかわっていくか、雑談の中でポロッとこぼれた言葉でした。

閉ざされた空間で練習に励む時間は、己との戦い。

「人に会うと疲れる」というのは、自分を凝視できる人だけが感じるのではないかと思いました。

しかし、考えが違う人にもまれることによって人間は洗練される。

音楽は好みや共感から身近になりますが、意外なところに魅かれることもあります。

今では大切なレパートリーですが、ピアソラの作品は自身にとって、聴いたことのないような音楽でした。

タンゴとジャズ、クラシックが融合されていて、アルゼンチンの血が色濃く表現された、エキゾチックな響き…。

今まで学んできたクラシック音楽とは全然違うハーモニーとリズム。

その意外性に魅了されて、ピアソラの世界に入っていったのです。

自分を確立しながらも、心柔らかでいる。

人や音楽、その様々な出会いの先に、新しい自分がいるような気がします。
ピアソラへのオマージュ
ギドン・クレーメル(ヴァイオリン)
白い巨塔
山崎 豊子(著)
新潮社
国立大学の医学部第一外科助教授・財前五郎。食道噴門癌の手術を得意とし、マスコミでも脚光を浴びている彼は、当然、次期教授に納まるものと自他ともに認めていた。しかし、現教授の東は、財前の傲慢な性格を嫌い、他大学からの移入を画策。産婦人科医院を営み医師会の役員でもある岳父の財力とOB会の後押しを受けた財前は、あらゆる術策をもって熾烈な教授選に勝ち抜こうとする。 出典:amazon

植木 美帆
チェリスト

兵庫県出身。チェリスト。大阪音楽大学音楽学部卒業。同大学教育助手を経てドイツ、ミュンヘンに留学。帰国後は演奏活動と共に、大阪音楽大学音楽院の講師として後進の指導にあたっている。「クラシックをより身近に!」との思いより、自らの言葉で語りかけるコンサートは多くの反響を呼んでいる。
HP:http://www.mihoueki.com
BLOG:http://ameblo.jp/uekimiho/
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