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空海(三田誠広)

ここに描かれている姿は、実に人間臭く野心的

空海
三田誠広 (著)
以前、空海や最澄にまつわる本を読んだことがあります。

なかなか頭に入らなくて、そのままにしていたのですが、この本に出会い、自分なりの空海像がつかめました。

”空海”と言うと、何となく神様のようなイメージが浮かびます。

しかし、ここに描かれている姿は、実に人間臭く、野心的です。
さらにグローバルな視野で冷静に物事を捉え、その根本には、『日本を良くしたい』という志があります。

この時代、最澄はすでに高僧として名を広めていました。それに比べ、一介の私度僧でしかない空海は知恵を巡らし、あの手この手で遣唐船に乗る権利を得ます。

子どもの頃は、故郷である四国の野山を駆け巡り、強靭(きょうじん)な身体と、研ぎ澄まされた動物的嗅覚を身に付けました。その後、都へ出て大学に入り、さまざまな教えを学びます。

空海を見ていると、その方向性は、本能に導かれながらも、自ら選び取っているように思えるのです。

自分にとって必要なものは何か。
そのためには何を選ぶのか。
そして、どこへ向かうか。

常に冷静に判断しているように私には映りました。

生かされた者としての使命は何か?

それは、中国へ行き真言密教の神髄を学び、自分のものにして、日本へ伝えること。そして、平和な世にしたい。自分にはその使命がある。

このぶれない軸を持った空海は、どんな困難が降りかかろうと、岩のように全く動じません。

例えば、遣唐船が難破しそうな時も一人落ち着いていました。

(本文より)
船が激しく揺れ始めた。船板がぎしぎしと悲鳴を上げている。瀬戸内の速い潮にさらされただけで補修が必要だった船だ。たちまち浸水が始まった。~

揺れる船の中で、空海は喉の奥で陀羅尼を唱えながら、静かに禅定の姿勢をとっている。逸勢は船底を転げ回って悶え苦しんでいる。恐怖もあるが、ひどい船酔いで、咆哮(ほうこう)するようなうめき声を上げている。

「空海よ、もっと大声で祈れ。声を上げねば諸仏に祈りが届かぬであろう」空海は穏やかな声で応えた。

「騒ぐな。この嵐はいずれ収まる。そうでなければおれが唐に渡れぬではないか。おれが唐に渡らねば、誰が大日如来の教えを日本に伝えるというのだ」
さらに、留学期間を20年とされていたのに対し、密教をなるべく早く持ち帰りたかった空海は、『そんなに待てるか』と、必要な仏具をそろえるために一気に小遣いを使い、たった2年で勉強を終えて帰国します。

周囲は無理だと思うことも、自分が生かされているというのは、可能ということだ。そう信じる姿は、痛快です。

読み進むうちに、自身の悩みや迷いまでも吹き飛ばしてくれるようでした。

音楽研究の中で、つい欲張ってしまい、あれもこれも…と広げてしまうことがあります。 しかし、もう一度じっくり腰を据えて向き合ってみよう。そう思うようになりました。

中でもバッハの研究は、素晴しい充実感があります。

無伴奏チェロ組曲は全部で6曲ありますが、たまたま弟子が取り組んでいた2番目の曲で、魂に何かが突き刺さるような衝撃を受けました。

この曲はニ短調と言って、深刻な雰囲気をかもし出す調性です。

昔、ドイツでピアノクラスの通訳をした時、ニ短調の説明で「モーツアルトの憂鬱」と言う言葉を知りました。

どちらかと言うと「鬱(うつ)」に近いかもしれません。

とにかく、ニ短調は心の闇に触れる響きなのです。

次々と現れる深刻な響きを、どんな深さで表現するのか?
このさじ加減を操作し、創っていく…。
演奏する上で極上の楽しみがそこにはあります。

音楽を聴く喜び、弾く喜び。

自分がより多く感じ、弟子に伝え、また多くの聴衆にも伝えていきたいと強く思います。
バッハ:無伴奏組曲より第2番
ロストロポーヴィチ(チェロ)
第2番のサラバンドは魂に迫る一曲です
空海
三田誠広 (著)
作品社
蝦夷の血を引く佐伯氏の末裔として讃岐に生まれ、山野を駆け、丹生の子女と交わった少年時代。鄙朴の野人が長じて大唐の天台山に渡り、恵果和尚より唯授一人の伝法潅頂を受けるまでの数奇な全生涯を描く畢生の大作。 出典:amazon

植木 美帆
チェリスト

兵庫県出身。チェリスト。大阪音楽大学音楽学部卒業。同大学教育助手を経てドイツ、ミュンヘンに留学。帰国後は演奏活動と共に、大阪音楽大学音楽院の講師として後進の指導にあたっている。「クラシックをより身近に!」との思いより、自らの言葉で語りかけるコンサートは多くの反響を呼んでいる。
HP:http://www.mihoueki.com
BLOG:http://ameblo.jp/uekimiho/
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