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生くる(執行草舟)(三)

恐れずに、勇気をもって生きる

生くる
執行 草舟 (著)
自分を出すことについて、表現者でありながら、ずっと葛藤がありました。

心の奥底に閉まってある気持ちは、まるでパンドラの箱のようで、開けてはいけないと身体が拒絶していたのです。

でも、なぜ自分が音楽に携わるのかが掴めた時、その秘する情感を出してみよう――そんな気持ちになりました。
 

(本文より)
真実とは何か

真実を知りたい、それは一人の人間が、その生涯を通じて思うことではないか。真実は、もちろん真理と言い換えてもよいと思っている。真実とは何か、真理とは何かを探究する者にとって、その研究の中心は宗教、歴史、哲学、化学などとなる。~

この世に真理はあるのか。結論から言うと確実にある。それでは、どこにあるのか。そう問われれば我々人間の心の奥深くにある、と私は答える。~

何かに共感し、身も心もすべて投げ出して徹底的に貫く誠だけが、我々人間にとっての真実となるのだ。~そして誠は、我々の心の奥深くの無垢なる場所に存在する。
まるで正面から射抜かれたような衝撃が走りました。

真理を追究しているような顔をして、逃げていただけの自分を痛感したのです。

(本文より)
間違いを恐れては、決して誠は貫けない。利害得失でしか、考えられない人、他人に好かれたい人なども、誠は貫けない。私はこのことが自分なりにわかってから、本当に人生が楽しくなった。
正解も不正解も、善も悪もない。
戸惑いを捨てて、全てを投げ出す覚悟でぶつかろう。

執行さんの言葉は大きな勇気を与えてくれました。

静かに自分の心と向き合うとき、いつも必ずシューベルトが聴きたくなります。中でもアルペジョーネソナタ・イ短調D.821は、初めて知ったその日から、なくてはならない一曲となりました。

〝アルペジョーネ〟というギターに似ていながら、チェロのように両足に挟んで弓で弾く楽器がありました。今では博物館にしかありません。シューベルト自身もこれがやがて廃れることを予期していたようです。

そして、恩師であるクラウス・シュトルク氏は、その貴重な〝アルペジョーネ〟での録音に成功した唯一のチェリストなのです。

『アルペジョーネの録音のせいで、僕の髪は真っ白になったんだよ』
そう言って、ユーモアたっぷりの笑みを浮かべた先生が思い出されます。

現在ではヴィオラやチェロなどで演奏されますが、実は、チェロでこれを弾くのは至難の業。

それでも、シューベルトの美しく官能的な世界に魅了され、棚から譜面を引っ張り出しては、音にしてみる…。

きっと、この関係は永遠に続くと予感しながら、そんな曲があってもいいかな、と思うのです。

(本文より)
心の深奥に棲むものがある。
我々は、それに魅入られている。
恐れずに、勇気をもって生きる。
清々しく晴れやかな気持ちが、胸に広がっています。
シューベルト:アルペジオーネソナタ
(クラウス・シュトゥルク)
生くる
執行 草舟 (著)
講談社
物質文明に惑わされ、生きにくい時代に切ない涙を流す現代人へ「生の完全燃焼」を激烈に問う。出典:amazon

植木 美帆
チェリスト

兵庫県出身。チェリスト。大阪音楽大学音楽学部卒業。同大学教育助手を経てドイツ、ミュンヘンに留学。帰国後は演奏活動と共に、大阪音楽大学音楽院の講師として後進の指導にあたっている。「クラシックをより身近に!」との思いより、自らの言葉で語りかけるコンサートは多くの反響を呼んでいる。
HP:http://www.mihoueki.com
BLOG:http://ameblo.jp/uekimiho/
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