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人はなぜ不倫をするのか(亀山早苗)

意外な事実が「不倫」という切り口から語られる

人はなぜ不倫をするのか
亀山早苗(著)
刺激的なタイトルです。書店で手に取って目次を確認するのにちょっと勇気がいりました。が、内容は至極まっとうです。堂々とレジに持っていってください。

著者の亀山早苗さんは、女性の生き方を中心に記事を書かれているライターで、17年に渡って市井の人びとの不倫について数多く取材されてきたそうです。その亀山さんの目から見て、2016年は著名人の不倫がかつてなく話題となった年でした。

亀山さんには、著名人に限らず、既婚者の婚外恋愛が近年増えているという実感があります。その背景にはさまざまな社会的要因が考えられるとしても、そもそも人はなぜ不倫をするのだろうか。この疑問を各界の専門家に尋ねて回って書かれたのが本書です。

ここに登場する専門家は、社会学、昆虫学、動物行動学、宗教学、心理学、性科学、行動遺伝学、脳研究の8人です。一言でまとめてしまうと、本書の帯の文句にもありますが、どの専門家も不倫を否定しませんでした。

だからといって推奨しているわけでもありません。本書は、専門家がそれぞれの立場から学問の成果をわかりやすく解説していますが、不倫の「是非」を述べているのではありません。タイトルの「人はなぜ不倫を」は取っかかりであって、8つの分野それぞれの研究方法やものの見方、そして最先端の研究成果をわかりやすく知ることができるのが本書の最大の魅力です。

例えば、第2章「昆虫は恋をするのか?」では、昆虫とヒトとはあまりに種が違いすぎて「人はなぜ不倫をするのか」というテーマとどう繋がるのだろうかと思われるかもしれませんが、そこで紹介されている昆虫の生態そのものが実に面白いのです。

特にアリの生態。女王アリだけが卵を産むということは昆虫に疎い私でも聞いたことがありましたが、なんと女王アリの交尾は生涯に一度限り、一生分の精子を体内に貯蔵し、一人で巣穴をつくってどんどん働きアリを生むのだそうです。

そして、巣がある程度の大きさになるまでに生む働きアリはすべてメス、つまり女王の娘なんだそうです。ではオスアリはいつ、どうやって生まれてくるのか。気になるでしょう? このように、ふだん馴染みのない分野の意外な事実が「不倫」という切り口から語られるという、この本の作りかたが大変面白く感じました。

ところで、本書はタイトルがそもそも論争的です。「人はなぜ不倫をするのか」というフレーズには、人の道から外れた、あるいは生物としての道から外れた、つまり否定されるべき行為の原因を解明するというようなニュアンスが感じられます。

第1章では、社会学者の上野千鶴子さんが、この問題設定に真っ向から疑問を呈しています。「不倫」というのは、一生ひとりの人を愛し続けるという約束(結婚)をするからこそ成立するものですが、上野さんは生涯にわたる性的自由を拘束する結婚という制度そのものに否定的な立場をとります。冒頭からテーマ設定そのものを根底から問い直すのです。

そこから、人間はそもそも生涯ひとりの人だけに恋愛感情を持ち続けられるのかという問いが生まれます。実は、第2章以下に登場する他の専門家も、この問いを共有しているのが興味深いところです。

そして、どの専門家も、多少ニュアンスは違いますが、ただひとりの異性のみに恋愛感情が持続することを絶対視してはいません。帯の文句「誰ひとり不倫を否定しなかった」というのはそこから来ています。読み進めるにつれ、私も、これまで自分が持っていた人間の心理や生態への理解が、必ずしも正しいとは言い切れないものだったのだと感じました。

こうしたテーマは年齢や人生経験によって捉え方が変わってくると思います。嫌悪を抱く人もいるでしょう。ただ本書は、赤裸々な不倫の実態を暴くという類のものではないので、安心して読んでいただけます。むしろ、そうした記述を期待する人はガッカリするでしょう。ものの見方を広げたいと思う人、人間の心理や行動を理解するために諸学問がそれぞれどのようなアプローチの仕方をするのかを知りたい人におすすめです。
人はなぜ不倫をするのか
亀山早苗(著)
SBクリエイティブ新書
「人はなぜ不倫をするのか」。きっと少なくない人が、その答えを探している。本書はこの問いかけを第一線で活躍する8名の学者陣にぶつけた本だ。「ジェンダー研究」「昆虫学」「動物行動学」「宗教学」「心理学」「性科学」「行動遺伝学」「脳」。さまざまなジャンルの専門家が、それぞれの学問をベースに不倫を解説する。 出典:amazon
profile
橋本 信子
同志社大学嘱託講師/関西大学非常勤講師

同志社大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。同志社大学嘱託講師、関西大学非常勤講師。政治学、ロシア東欧地域研究等を担当。2011~18年度は、大阪商業大学、流通科学大学において、初年次教育、アカデミック・ライティング、読書指導のプログラム開発に従事。共著に『アカデミック・ライティングの基礎』(晃洋書房 2017年)。
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⇒関西ウーマンインタビュー(アカデミック編)記事はこちら



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