HOME  Review一覧 前のページへ戻る

PTA、やらなきゃダメですか?(山本浩資)

言っても変わらないかもしれないけれど、言わなきゃ変わらない。

PTA、やらなきゃダメですか?
山本浩資 (著)
新年度、小中学生の子どもを持つ親の悩みといえばこれです。PTAの役員選出。
いかに逃れるか、あるいはどのタイミングで引き受けておくか。

著者の山本浩資さんは新聞記者です。小学校のPTA会長就任を依頼され、悩んだ末に引き受けることにしました。結局3年にわたって会長をつとめることになり、それだけでなく、その間にPTAの組織改革にとりくむことになりました。

それは、義務と強制、持ち回りと前例踏襲のPTA活動に対する疑問から始まりました。山本さんは、岩崎夏海氏の大ヒット小説『もし高校野球のマネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』を参考にしました。

PTAは誰のための組織なのか。「顧客」は誰なのか。そんなことを考えていると、わが子に「学校に関わる人すべてじゃないの」と言われ、そこから道が開けたといいます。「子どものため」だと考えると親は義務感で頑張ってしまいます。でも、PTAを、学童、保護者、教職員、地域の人みんながハッピーになれるような組織にすれば楽しいものになるのではないか、と発想したのです。

山本さんたちは、海外経験のある保護者らに諸外国のPTA活動について尋ねました。そのなかに、すべての活動をプロジェクト方式にして、それぞれにボランティアを募っている事例がありました。これが大きなヒントになりました。お国柄や地域の実情は違うかもしれませんが、少なくともこれまでのやり方が唯一の道ではないことが分かりました。

そもそもPTA活動の中には、負担が大きいわりに会員から喜ばれていないものがあります。でも自分たちの代でそれらを廃止するのはためらわれます。多くの学校でPTA役員は一年交代であるため、前例踏襲で一年をやり過ごすような運営がされがちです。

そこで山本さんは、いつからどういう理由でその活動が始まったのか、なくすことに問題はあるのか、過去の資料をひもといたり、当時の役員に確認したりして調べました。すると、始めた当時は確かに必要があったが今はそうでもなく、廃止に反対する人もいないという活動がありました。そうした調査結果をきちんと示すことで、廃止の理解を得ることができました。

ただ役員の独断にならないよう、会員の意見を吸い上げることを心がけたそうです。例えば、ベルマーク運動はぜひ続けたいという人が現れました。そこで「プロジェクト」方式を採用して希望者を募り、活動として継続することにしました。

また意欲があっても時間的に参加できない人がいるかもしれません。山本さんたちがPTA活動に参加しやすい曜日や時間をアンケートで訊いたところ、それまで言われていた「平日昼間」を望む人は案外少なかったそうです。思い込みではなく、現状をきちんと把握することが大事だとわかりました。

こうして、山本さんたちはPTAを、安全・防災や学外行事、ベルマーク運動など活動ごとにボランティアを募り、役員会はそれら活動のコーディネートをするという、自由参加式のボランティア組織に変えたのです。意欲を持って携われるように工夫することで、PTA活動が「部活」のような楽しいものとなっているようです。

もちろん、この改革がすぐに進んだわけではありません。組織改革の説明会への参加者がたったの10人だったりもしました。しかし山本さんたちは、これを関心のある人が10人も足を運んでくれたと考えました。実際にその人たちがよき理解者、協力者となってくれたのです。

組織はどうせ変わらない、言っても反対にあうからと、私たちは「我慢」しがちです。でもそれは変えようとしないという行動を選択しているとも言えます。言っても変わらないかもしれないけれど、言わなきゃ変わらない。PTAに限らず、組織改革や課題解決のヒントとパワーを与えてくれる一冊です。
PTA、やらなきゃダメですか?
山本浩資 (著)
小学館 (2016)
子どもを持つ人にとって、悩ましいのがPTA問題。「役員を押しつけられた」「委員を断ると仲間はずれにされた」「“お手伝い”を強要された」などトラブルは少なくない。その最大の元凶は、PTAへの加入や行事への参加が「義務」だと思われていることにある。これに対して、とある公立小学校のPTAから「役員会」や「委員会」をなくし、地域と協力しつつ「完全ボランティア」による運営を実現させた山本浩資氏が、PTA活動を楽に、楽しくするポイントを説く。 出典:amazon
profile
橋本 信子
同志社大学嘱託講師/関西大学非常勤講師

同志社大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。同志社大学嘱託講師、関西大学非常勤講師。政治学、ロシア東欧地域研究等を担当。2011~18年度は、大阪商業大学、流通科学大学において、初年次教育、アカデミック・ライティング、読書指導のプログラム開発に従事。共著に『アカデミック・ライティングの基礎』(晃洋書房 2017年)。
BLOG:http://chekosan.exblog.jp/
Facebook:nobuko.hashimoto.566
⇒関西ウーマンインタビュー(アカデミック編)記事はこちら



@kansaiwoman

参加者募集中
イベント&セミナー一覧
関西ウーマンたちの
コラム一覧
BookReview
千波留の本棚
チェリスト植木美帆の
[心に響く本]
橋本信子先生の
[おすすめの一冊]
絵本専門士 谷津いくこの
[大人も楽しめる洋書の絵本]
小さな絵本屋さんRiRE
[女性におすすめの絵本]
手紙を書こう!
『おてがみぃと』
本好きトークの会
『ブックカフェ』
絵本好きトークの会
『絵本カフェ』
手紙の小箱
海外暮らしの関西ウーマン(メキシコ)
海外暮らしの関西ウーマン(台湾)
海外暮らしの関西ウーマン(イタリア)
関西の企業で働く
「キャリア女性インタビュー」
関西ウーマンインタビュー
(社会事業家編)
関西ウーマンインタビュー
(ドクター編)
関西ウーマンインタビュー
(女性経営者編)
関西ウーマンインタビュー
(アカデミック編)
関西ウーマンインタビュー
(女性士業編)
関西ウーマンインタビュー
(農業編)
関西ウーマンインタビュー
(アーティスト編)
関西ウーマンインタビュー
(美術・芸術編)
関西ウーマンインタビュー
(ものづくり職人編)
関西ウーマンインタビュー
(クリエイター編)
関西ウーマンインタビュー
(女性起業家編)
関西ウーマンインタビュー
(作家編)
関西ウーマンインタビュー
(リトルプレス発行人編)
関西ウーマンインタビュー
(寺社仏閣編)
関西ウーマンインタビュー
(スポーツ編)
関西ウーマンインタビュー
(学芸員編)
先輩ウーマンインタビュー
お教室&レッスン
先生インタビュー
「私のサロン」
オーナーインタビュー
「私のお店」
オーナーインタビュー
なかむらのり子の
関西の舞台芸術を彩る女性たち
なかむらのり子の
関西マスコミ・広報女史インタビュー
中村純の出会った
関西出版界に生きる女性たち
中島未月の
関西・祈りをめぐる物語
まえだ真悠子の
関西のウェディング業界で輝く女性たち
シネマカフェ
知りたかった健康のお話
『こころカラダ茶論』
取材&執筆にチャレンジ
「わたし企画」募集
関西女性のブログ
最新記事一覧
instagram
facebook
関西ウーマン
PRO検索

■ご利用ガイド




HOME