サードプレイス(レイ・オルデンバーグ)
そこに行けば誰かがいて会話を楽しめる魅力的な「場所」 サードプレイス
コミュニティの核になる「とびきり居心地のよい場所」 レイ・オルデンバーグ (著) 原著は1989年にアメリカの社会学者オルデンバーグが一般の人に向けて書いた本です。書名の「サードプレイス」をインターネットで検索すると、次のような定義が出てきます。
「自宅(ファーストプレイス)や職場・学校(セカンドプレイス)ではない、一個人としてくつろぐことができる第三の居場所」(「知恵蔵mini」より)
この意味での「サードプレイス」を大手コーヒーチェーンのスターバックスが自社のコンセプトに打ち出したことで、「サードプレイス」は、家や仕事から離れて一人きりでくつろげるところ、いわば避難場所のように捉えられることが多くなりました。
しかし、オルデンバーグがこの本で述べている「第三の居場所」の核心部分は、実はそこではありません。先ほどの「知恵蔵mini」の説明の後半部分にもさらりと書かれていますが、サードプレイスとは「出会いや良好な人間関係を提供する重要な場」であること、そこに行けば誰かがいて、社会的な地位とは関係なく会話を楽しめる場所であるというところが一番のポイントなのです。 そして、そのような場所から新たな友人関係が生まれたり、趣味や社会奉仕やスポーツなどのグループが生まれたりするのだとオルデンバーグは言います。そういう様々な人間関係が発生する土壌となる場所が、そこここに存在することの重要性をオルデンバーグは熱く主張しているのです。 サードプレイスの例としては、イギリスのパブや、フランスのカフェやビストロなどが挙げられています。それら「とびきり居心地の良い場所」に共通する特徴は、ヒューマンスケールに合っていること、つまり徒歩で毎日気軽に立ち寄ることのできる範囲にあること、ごく近隣の居住者の利用を主に想定していること、無料またはわずかなお金でゆっくりくつろげること、社会階級や職業などに関係なく利用できることなどです。 ところが、オルデンバーグによると、現代人はどんどん「私秘化」に陥っているといいます。公的なことよりも私的生活を優先させ、自宅になにもかもを揃えなければ落ち着かなくなっています。気軽に集える公共の場所もどんどん減っています。それによって一番あおりを食うのが子どもや若者です。オルデンバーグは、若者の居場所をまったく考慮しない都市計画、社会のありかたを強く批判しています。 このあたりの指摘には唸らせるものがあります。しかし、オルデンバーグの議論には頷けない点も多々あります。例えば家族で通えるサードプレイスを讃えるかと思えば、男性は家庭から逃れて同性だけで心おきなく過ごしたいのだから、女性が男性のサードプレイスに入ってくるのは勘弁してくれと言うような記述が繰り返し出てきます。 たしかに同性といる気安さや楽しさはあるでしょうし、そのような集いを否定する必要はありません。しかし男性が働き、女性が家庭を守るという図式や、異性が集うことに対する偏見、男性は(女性は)こういう空間でこういうことをして集うことを好むはずだという決めつけが目につきます。 さらにいえば、家庭や学校・職場が忍耐と服従の場であるかのように描くかと思えば、その逆の記述が出てきたりします。またサードプレイスは自宅から徒歩で毎日でも通える距離にあることが重要だとされていますが、しかし今の日本でそこにこだわりすぎると、「なんとなく会話したい」と思える多様な人が集まるだろうか、あるいは新たな人間関係が発生する土壌となるだろうかという疑問もわきます。 このようにオルデンバーグのサードプレイス論にはいろいろ突っ込みたくなる点もありますが、だからこそ、では私たちは彼が主張するような場所をどこに見いだせるのか、どのようにすれば生み出せるのだろうかと考えさせてくれます。都市生活のありかた、まちづくり、市民活動のありよう、職場や学校の空間づくりにもヒントをたくさん与えてくれる一冊です。 サードプレイス
コミュニティの核になる「とびきり居心地のよい場所」 レイ・オルデンバーグ (著) みすず書房(2013) 居酒屋、カフェ、本屋、図書館…情報・意見交換の場、地域活動の拠点として機能する“サードプレイス”の概念を社会学の知見から多角的に論じた書、待望の邦訳。 出典:amazon 橋本 信子
同志社大学嘱託講師/関西大学非常勤講師 同志社大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。同志社大学嘱託講師、関西大学非常勤講師。政治学、ロシア東欧地域研究等を担当。2011~18年度は、大阪商業大学、流通科学大学において、初年次教育、アカデミック・ライティング、読書指導のプログラム開発に従事。共著に『アカデミック・ライティングの基礎』(晃洋書房 2017年)。 BLOG:http://chekosan.exblog.jp/ Facebook:nobuko.hashimoto.566 ⇒関西ウーマンインタビュー(アカデミック編)記事はこちら |