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砂男「ホフマン短編集」より(E.T.A.ホフマン)

幻想的なドイツ文学の世界

砂男
「ホフマン短編集」より
E.T.A.ホフマン (著)
サイコ・ホラーの原点とも言われる「砂男」は、 ドイツ人作家ホフマン(1776-1822)が書きました。

幼いナタナエルをおそった恐怖体験。そして、大学生となった彼に忍びよる、不吉な影。

心の中で天使と悪魔がせめぎあい、しだいに狂気の世界に転落する物語です。

その恐怖体験とは…。

夜九時、幼いナタナエルに母が言います。

(本文より)
『さあ子供たち-ベッドにいく時間ですよ。でないと砂男がやってきますよ。ほうら、足音が聞えてきた!』
近づく不気味な足音を背に、「本当に砂男っているの?」と聞くナタナエル。

すると母はこう答えるのです。

(本文より)
『砂男がきますよって母さんが言うのは、みんなが眠そうにしているからなの。まるで目に砂を入れられたみたいで、お目めがふさがっているでしょう』
「ウソだ…。」決まってやってくる足音と、ぎこちなくなる両親の様子。

ある日、思いあまって婆やにたずねます。すると婆やは答えました。

(本文より)
『ぼっちゃまはご存知なかったのですか?悪い男でございますよ、 子供たちがベッドにいきたがらないとやってきて、 お目めにどっさり砂を投げこむのでございますよ。

すると目玉が血まみれになってとび出しますね。砂男は目玉を袋に投げこみまして半分欠けたお月さまにもち帰り、 自分の子供に食べさせるのでございますよ。』
あまりの恐ろしさに、震えるナタナエル。

十歳になったある晩、ついにその正体をつかむべく、戸棚に隠れ待ち伏せします。

そこで見た光景とは…!

砂男とは意地悪で気味悪くて大嫌いな、老弁護士コッペリウスだったのです。

その傍らには、別人のように醜くゆがんだ父の顔が…。

隠されていた小さな炉をのぞき込む二人。周りには奇妙な道具が並びます。

コッペリウスはあやしく光るかたまりを取りだし、しきりに叩きはじめました。

(本文より)
『ぼくは目の前にゆらゆらと顔が浮かび出たような気がした。どの顔にも目がないのだった。目のかわりにまっ黒な穴が無気味に口をあけているのだった。

「目玉よ、おいで、目玉よ、出てこい!」コッペリウスが低くうなるように言った。』
その後、爆発が起こり父は帰らぬ人となったのです。

大学生になったナタナエルはあるきっかけで「砂男」を思い出します。

いまいましい記憶に取りつかれる日々。

ある日、物理学教授の美しい娘・オリンピアに出会います。

出会う、と言ってもこの娘は何をするでもなく、 焦点が定まらない目つきで座っているだけ。

はじめは気味悪かったのに、 なぜか気になり向かいの窓から望遠鏡で眺めるようになります。

見ればみるほど完ぺきな姿。そしていつしか「とりこ」となってしまいます。

しかし正体は、教授の作った「自動人形」だったのです。

その後、無残なオリンピアの姿を目の当たりにすることになります。

この一件で、ついに自分を失ったナタナエル。

不幸にも恐ろしい結末へと向かいます。

「砂男」は北ヨーロッパの伝説で、子供を眠らせるために魔法の粉をふりかける妖精です。

昔々、ヨーロッパはうっそうとした森におおわれていました。

そこには妖精が住み、 森は神聖で神秘に包まれたものとして、オーク(樹木)信仰へとつながりました。

なかでも北方ゲルマンは寒さ厳しく禁欲的な暮らしから、フラストレーションに抑圧され、 魔女狩りなどのカルトが多くおこりました。

「砂男」には、ゲルマン独特の魔的でグロテスクな世界と、 それを包む温かなドイツロマンが共存します。

その余韻はこの音楽を誘います。

シューマン(1810-1856)の歌曲「詩人の恋」です。

ドイツに生まれたシューマンは人間の内側を見つめ表現しました。

素朴なメロディーは、切々と心に響きます。

寒い朝に決まって聴きたくなるのは、人を温める力があるからかも知れません。

読書家であったシューマンは、ホフマンにインスピレーションを受けました。

またホフマン作品からは、バレエ「くるみ割り人形」や、「コッぺリア」など、 数々の名作が生まれています。

シューマンが作曲すると、そこにはドイツ文学とロマンの香りが満ちあふれるのです。

幻想的なドイツ文学の世界に触れてみてはいかがでしょうか。
シューマン:詩人の恋
プライ(ヘルマン) シューマン (作曲), ホカンソン(レナード) (演奏)
プライ(バリトン)の艶やかで切ない歌声が心地よく響く一枚。 前奏のピアノ、一つ目の音から ドイツロマンの世界に引き込まれます!
砂男
「ホフマン短編集」より
E.T.A.ホフマン (著)
池内紀(編訳)
岩波書店
平穏な日常の秩序をふみはずして、我知らず夢想の世界へふみこんでゆく主人公たち。幻想作家ホフマンは、現実と非現実をめまぐるしく交錯させながら、人間精神の暗部を映しだす不気味な鏡を読者につきつける。名篇「砂男」はじめ六篇を収録。 出典:amazon
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植木 美帆
チェリスト

兵庫県出身。チェリスト。大阪音楽大学音楽学部卒業。同大学教育助手を経てドイツ、ミュンヘンに留学。帰国後は演奏活動と共に、大阪音楽大学音楽院の講師として後進の指導にあたっている。「クラシックをより身近に!」との思いより、自らの言葉で語りかけるコンサートは多くの反響を呼んでいる。
Ave Maria
Favorite Cello Collection

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