野ばらの村の秋の実り(ジル・バークレム)
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![]() 世界観と呼ぶに相応しい綿密な設定 野ばらの村の秋の実り
ジル・バークレム(作)/こみやゆう(訳) 昔から夏は好きじゃないんですが、年々その度合いが増しています。もしかしたら、子供の頃は夏休みがあったから、辛うじて嫌いにならずに済んでいただけかもしれません。
毎年言ってるかもしれませんけど…今年の暑さは段違いな気がする。35度以上の日が普通にまだまだ続きそうな気配ですもんね?あり得へん。 さて、今月ご紹介する絵本の表紙を飾るのは、食べ頃を迎えたブラックベリーの実。日本だと盛夏のうちに収穫できるけれど、イギリスでは夏と秋の境目を伝える、定番のモチーフだそうです。 だけどこの作品、じつは秋だけでなく。各季節をテーマにしたものを含め、シリーズとしてリリースされているうちの一つなんです。 作者の言葉によりますと、大学生の頃、通学で利用する地下鉄の混雑が苦痛過ぎて、日々空想してやり過ごした結果、一連の作品の世界観が構築されていったのだとか。 イライラして当然の状況に身をおく中で、こんなに愛らしい世界を脳内で構築できるなんて!これまた、あり得へん(自分なら、恨み節しか出てこない自信あり・苦笑) ネズミの集落が舞台のこの物語は、世界観と呼ぶに相応しい、綿密な設定によって構成されています。 表紙の絵は原寸に近いサイズで描かれています。中央のネズミがいかに小さな存在かがよくわかりますね。そんなネズミたちの小さな世界に訪れる秋。 読むと、まずはキャラクターやインテリアの愛らしさに目を奪われるかと思うんですが、この場でお伝えしたいのは、作中で描かれる、夜になると嵐がやってくるぞ、という一日の様子です。 爽やかな秋の一日だったのが、ある時点でにわかに暗くなり、雨が降り出します。ネズミを取り巻くごく限られた風景を切り取って描いているにも関わらず、天気の変化がしっかり感じられるってすごいなって思います。 そして。ここからは個人的な思い入れですが、長年大切にとってあるコンパクトミラーの外側に、この絵本のラストシーンがあしらわれているんです。 購入当時は20代で、まだ改めて絵本に興味を持つ前だったから、何の絵なのか知ろうとするでもなく、ただ絵の愛らしさに惹かれて手に取りました。 後に訪れた転機で今の仕事を選択し、この絵の出所を知り、古書でしか入手できないことを嘆いたのち、この期に及んで復刊の喜びにありつけるとは。いやはや、あり得へん。とっても幸せなことです。 というわけで、昨年5月にお店の様子を変えようと思った時には、イギリスの古い家具とともに、この作品の絵をあしらったカップとソーサーもいくつか買うことにしたんです。 当店でお飲み物をオーダー頂いた際は、絵本と合わせてお楽しみ頂けたら嬉しいです。 野ばらの村の秋の実り
ジル・バークレム(作)/こみやゆう(訳) 出版ワークス ![]() 恒松 明美
ギャラリーリール(GALLERY RiRE)店主 小説なら1日。映画なら2時間。絵本なら、長くても15分くらいでしょうか。 それでも小説や映画に負けないくらい、心が満たされる絵本があります。 毎日、時間がたりない…。そんな、忙しく働く女性にこそ、 絵本はよきパートナーとなってくれると思います。 毎日窮屈だな。ちょっと背伸びしてばかりだったかな。 「心の凝り」が気になる時におすすめの、絵本をご紹介します。 ギャラリーリール(GALLERY RiRE) |