きりぎりすくん(アーノルド・ローベル)
![]() |
|
![]() 清々しいほど明確に「私はこうして生きてゆく」 きりぎりすくん
アーノルド・ローベル(作・絵) 三木 卓(訳) 着物がご縁で、以来お世話になっている方(Rさん)が、お一人で日帰りで倉敷へ行くというので、楽しそう!と私もご一緒させて頂くことになりました。
休日に美観地区を着物で散策とか、素敵過ぎる…!! と思いきや、Rさんが現地で会う約束をしていた方々との交流が、あんまり有意義だったので。 ランチ後にカフェへ直行、お喋りにすっかり夢中になってしまった結果、ろくに散策せぬまま帰路につくという(!)まさかの展開に。 でも、大満足だったんです。 このことは、いつしかロケーションやサービスばかりに気をとられて、旅先に出会いや自己成長のようなものを求めなくなって久しい自分に気づく、いい機会となりました。 今回ご紹介する作品もまた、そうした視点を思い出させてくれる作品です。 作者はアーノルド・ローベル。以前ご紹介した「がまくんとかえるくんシリーズ」が、代表作として有名ですね。 先へと続く、いい感じの道をみつけた、きりぎりすくん。「ぼく この みちを いくよ!」。きりぎりすくんの旅が始まりました。 訳者があとがきで「へんてこな連中」と呼ぶように、行く先々では風変わりな出会いがいくつも待っていました。 甲虫、青虫、ハエや蚊、チョウチョウにトンボ。みなバラバラの身体的特徴を持っていて、きりぎりすくんとはまるで違う。そこへ、興味関心など内面における強烈な個性が加わったのが「へんてこな連中」。 朝を愛してやまない甲虫の集団「おはようぐみ」の彼らは、朝の素晴らしさを訴えるプラカードを持って、「あさ ばんざい!」と声高に主張することに一生懸命です。 「クローバーは いつ つゆで きらきらしますか?」
「あさ!」 「たいようの ひかりが あたらしい きいろなのは いつでしょう?」 「あさ!」 っていうかけ合いの場面が、個人的に好きです。
アホっぽいのは承知しつつですよ、それでも一緒に「あさ!」って、つい叫びたくなっちゃうではないですか(笑) 一日のルーティーンを完遂したいチョウチョウたちの揺るぎなさ(?)も、なかなかのもの。 彼らがへんてこなのは、絵本作品としてのご愛嬌。 大切なのは、みな一様に抑圧されることなく、清々しいほど明確に「私はこうして生きてゆく」を体現しているということです。 そうした出会いを経て、夜を迎え、きりぎりすくんは何を思うのでしょうか。その答えは描かれていなくとも、刺激的な一日を終えての寝顔は穏やかで、充足感に満ちています。 私も倉敷から帰った日の夜は、こんな顔で眠りについていたのかしら…? そうだったら、いいな。 誰かの生きる道に、ふれる旅。またきっと近いうちに、そんな旅ができたらいいなと思います。 きりぎりすくん
アーノルド・ローベル(作・絵) 三木 卓(訳) 文化出版局 ![]() 恒松 明美
ギャラリーリール(GALLERY RiRE)店主 小説なら1日。映画なら2時間。絵本なら、長くても15分くらいでしょうか。 それでも小説や映画に負けないくらい、心が満たされる絵本があります。 毎日、時間がたりない…。そんな、忙しく働く女性にこそ、 絵本はよきパートナーとなってくれると思います。 毎日窮屈だな。ちょっと背伸びしてばかりだったかな。 「心の凝り」が気になる時におすすめの、絵本をご紹介します。 ギャラリーリール(GALLERY RiRE) |