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Six Men by David McKee

ありそうで恐ろしい

Six Men
by David McKee
"Six Men”(『六にんの男たち』)は、『ぞうのエルマー』で有名なデビッド・マッキーの初期(1973年)の作品です。なぜ戦争が繰り返されるのかを、シンプルに、ユーモアと皮肉をこめて描いています。

むかしむかし、六にんの男たちが、平和に暮らせる場所を探して旅をしていました。ついに土地をみつけて落ち着き、農場をつくり、豊かになっていきました。豊かになると、誰かに盗まれるのではと心配になり、兵隊を雇って見張ってもらうことにしました。泥棒はやってこず、兵隊たちは退屈になって、怠けだします。六にんの男たちは、兵隊を働らかせようと、となりの農場を襲わせることにしました。

武器を持たない人々を、かんたんに追い出すことに成功した兵隊たちは、味をしめ、次々とまわりの土地を奪っていきました。兵隊の数も増え、六にんの男たちは、お金持ちになりました。大きな川のほとりまで。土地をすべて手に入れました。

何人かの農夫は、兵隊から逃れ、川の向こう岸に辿りつきました。向こう岸の人々は、逃れてきた農夫の話を聞き、心配になって、自分たちも軍隊を準備することにしました。川の両岸には、それぞれの兵が見張りにたちます。どちらも攻めないので、また退屈になり、気晴らしにカモに向かって放った一本の矢が、攻撃と間違われ、全面戦争になります……

単純化されていますが、現代の戦争は、こんな風に起こるのではないでしょうか。狂信的な宗教によるものなども、あるとは思いますが。自衛のための軍隊であったはずが、疑心暗鬼から戦争に発展してしまう。平和だと、退屈で怠けてしまう、というのが、ありそうで恐ろしいです。お話の最後には、六にんだけが生き残り、平和に暮らせる場所を求めて旅立ちました。これが繰り返しになります。

イラストは、白黒で、ペンで軽快に描かれています。兵隊の姿や、戦いのシーンなどは、模様のように描かれていて、淡々とした寓話の世界観が見事に表現されています。大人が読むと考えさせられますが、子どもにも分かりやすい絵本です。

このお話を読んで、『三体Ⅱ 黒暗森林』が思い出されました。中国初のベストセラーSF小説です。フェルミのパラドックス、「地球外に文明がある可能性が高いと思われているが、なぜ今までその文明と接触がないのか」がテーマになっています。

『三体』では、その理由は、あえて接触を避けているから、としています。相手の文明が友好的であるかは不明で、今は友好的でも、将来的にどうなるかわからない、技術(軍事)レベルも、今は自分たちより低くても、飛躍的な発展で追い抜かれるかもしれず、攻撃されない保障はない、ためです。見つかった時点で、相手を消してしまわないと、自分たちの生存が危うくなります。

真っ暗な森のような宇宙の中で、見つからないように息を潜めている文明が、他にいるのかもしれません。地球人は決して攻撃しないから、出てきて交信してください、と言えないですね……

宇宙のことまで考えると、軍縮は永久にできないのでしょうか。戦争が一刻も早く終息することを願います。

デビッド・マッキーさんは、4月6日に87歳でお亡くなりになりました。たくさんの素晴らしい絵本をありがとうございます。ご冥福をお祈りいたします。
Six Men
by David McKee
Publisher: NorthSouth Books
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谷津 いくこ
絵本専門士

絵本を原書で読んでみませんか?アートな絵本、心が豊かになる絵本、英語圏の文化に触れられる絵本などを紹介します。
StoryPlace
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