おおきな ものの すきな おうさま(安野光雅)
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![]() どうかこのメッセージが届いてくれないかな おおきな ものの すきな おうさま
安野光雅(作/絵) 行きそびれてしまいました。美術館「えき」KYOTOで開催されていた、安野光雅さんの追悼作品展。
15年ほど前だったでしょうか、同じ美術館で安野光雅さんの展覧会が開催されていて、訪れた日がたまたまサイン会の日で。サインしてもらったんだけど、ご本人を目の前にして嬉し過ぎたのと、緊張し過ぎたのとで、一言も喋れなかったのをよく覚えています。 さて、わがままな王様が登場する絵本は豊富にありますが、今回ご紹介する作品もそのうちの一つ。1976年発行の古い作品です。 おおきなものが好きな王様の滑稽な日常が描かれています。身の回りの日用品や道具が巨大でなかったら、この王様はがっかりして泣いてしまうのです。 家来や国民が総出で、王様が泣かないよう手を尽くします。巨大なものを造ったり、集めたり。 それらを王様が日々ちゃんと使えるようにするための装置なども描かれていて、とっても楽しい場面が続きます。 安野光雅さんの絵は、どれも不思議な魅力をたたえているなあと思います。文字通り、不思議な仕掛けを伴った絵も多く手がけておられますが、もちろん、その意味ではなくて。 細やかに引かれた輪郭線の一つ一つや、絵の具で着色された面の一つ一つには、「手仕事」と呼びたくなるような、心地よい温もりと、えもいわれぬいじらしさが宿っています。 この感じ…着物として作品を身にまとえたなら、めちゃくちゃ幸せなんじゃなかろうか?!ああでも、そんな夢のような反物があったとしても、夢のような財力がないと一生誂えんのか…って、何の妄想よ??(笑)すみません。 また別なある日には、大きな池を造るのと同時に、掘ってできた土を使って造った巨大な植木鉢も完成しました。 王様はその真ん中にチューリップの球根を一つ植えて、春になるのを、それはそれは楽しみにしていました。 巨大な植木鉢で、王様の期待を背負って育てられたチューリップ。春になって、どんな風に咲いたと思いますか? 安野光雅さんは、本作のあとがきの中で、巨大なピラミッドを造った古代エジプトの王であっても、大きな花を咲かせることだけはできなかったことにふれた上で、 「花一つ、虫一つが、かけがえのないものであることを思わねばならぬ。」 と締めくくっています。 巨大な鉢の真ん中にぽつん。普段と変わらず愛らしく咲いた一輪のチューリップからは、たとえあとがきがなかったとしても、そのメッセージがしっかりと伝わってきます。 私たちの身の回りも春本番、チューリップの見頃を迎える頃でしょうか。 現実世界の北方の国で強権を振るう王様の心にも、どうかこのメッセージが届いてくれないかなあ…と、願ってやみません。 おおきな ものの すきな おうさま
安野光雅(作/絵) 講談社 ![]() 恒松 明美
ギャラリーリール(GALLERY RiRE)店主 小説なら1日。映画なら2時間。絵本なら、長くても15分くらいでしょうか。 それでも小説や映画に負けないくらい、心が満たされる絵本があります。 毎日、時間がたりない…。そんな、忙しく働く女性にこそ、 絵本はよきパートナーとなってくれると思います。 毎日窮屈だな。ちょっと背伸びしてばかりだったかな。 「心の凝り」が気になる時におすすめの、絵本をご紹介します。 ギャラリーリール(GALLERY RiRE) |