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おちゃのじかんにきたとら(ジュディス・カー)

どう読み解くかは読み手に委ねられている

おちゃのじかんにきたとら
作・絵 ジュディス・カー
あけましておめでとうございます。

今年は住吉大社へ初詣に出かけました(着物で♪)。「寅年」と「初辰さん(招福猫)」、ネコ科の縁起物が揃って並ぶ様子はかわいく、思わず笑みがこぼれるお詣りとなりました。

トラの絵本は、以前「トラさん、あばれる」というタイトルもご紹介しましたが、今回の作品も私のお気に入りです。ロングセラーのよく知られたタイトルなので、ご存知の方も多いはず。

ソフィーという女の子が、お母さんと一緒にお茶の時間をとろうとした矢先、玄関のベルが鳴ります。お母さんがトラを招き入れると、お茶のために用意したものは瞬く間に平らげてしまい、今度は手当たり次第に家中の食べ物と飲み物を平らげていきます。

その食べっぷりが凄まじい。支度してあった夕食も、冷蔵庫の中身も、買い置きしてあった食材や保存食も、蛇口から出てくる水までも全部(全部って、どうやって?笑)、すっかりなくなるまで平らげてしまいました。

この作品には、日中自宅にいるお母さんと3才くらいの女の子、夜帰宅する通勤着風の洋服を着たお父さん、そして、自分のことを「僕」とよぶトラが登場します。

昨年の夏頃だったか、この作品がジェンダーの観点から問題がある作品として、本国イギリスのラジオ番組で取り扱われたらしい、というネット記事を目にしました。

作中では、お母さんが専業主婦だとか、お父さんが仕事帰りだとか、そのような説明文は一切ありません。ただ、絵(状況)がそれっぽく見えるだけ。問題視する人々は言います。「だからこそ性差別を無意識のうちに植え付け、助長する危険をはらんでいるのだ」と。

では、ここから先は私からの提案です。いかにも「それっぽい」と感じたなら、そうじゃない方の小さな可能性について、あれこれと想像力を働かせてみるのはいかがでしょうか。

お母さんは、フリーランスや在宅の仕事についているのかもしれないし、お父さんにしてみても、通勤着で出かける用事が必ずしも通勤だけとは限りません。

名言されていない背景については、どんな可能性だってあり得ます。想像し始めると、案外色々な可能性が立ちのぼってきます。それがユニークであればあるほど、楽しい読書の時間となるでしょう。

才能溢れる作り手は、いつだって、自身の愛着を誰かに押し付けるつもりなどありません。どう読み解くかは作り手ではなく、読み手に委ねられています。 ジェンダーの問題だけでなく様々な問題について、個々の読解と想像による積み重ねが、多様性を認め合う社会を育む土壌につながっていけば…理想的なんだけどなあ!

今年はそんな理想をより意識しながら、誰かの創作物や、ささやかな自己表現を伴った趣味やライフワークに親しめたらいいなと思っています。

本年もどうぞよろしくお願いいたします!
おちゃのじかんにきたとら
作・絵 ジュディス・カー 訳/晴海 耕平 童話館出版
profile
恒松 明美
ギャラリーリール(GALLERY RiRE)店主

小説なら1日。映画なら2時間。絵本なら、長くても15分くらいでしょうか。 それでも小説や映画に負けないくらい、心が満たされる絵本があります。 毎日、時間がたりない…。そんな、忙しく働く女性にこそ、 絵本はよきパートナーとなってくれると思います。

毎日窮屈だな。ちょっと背伸びしてばかりだったかな。 「心の凝り」が気になる時におすすめの、絵本をご紹介します。

ギャラリーリール(GALLERY RiRE)
大阪府堺市中区深井水池町3125
営業日:基本的に事前予約制(ご利用方法はHPご確認ください)
定休日:月曜・火曜+不定休
HP:https://galleryrire.theshop.jp/





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