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藤城清治 影絵の絵本 アンデルセン(藤城清治 )

静かな時間を過ごしたい時にぴったりの絵本

藤城清治
影絵の絵本 アンデルセン
一年が短く感じられる現象が年々加速しています。今年もあっという間でした、皆さんはいかがでしたでしょうか。

今回は、アンデルセンを扱った絵本から。タイトルは、ずばり『藤城清治 影絵の絵本 アンデルセン』。

「アンデルセンの、どれやのん?」という話ですが、この本は、いわば、絵本の短編集。「人魚姫」「マッチ売りの少女」など、有名どころではなくて、あんまり知られてなさそうなタイトルが5つ、藤城清治さんの影絵で楽しめます。

「①ひなぎく」「②ハンスのもらった鳥かご」「③眠りの小人のオーレおじさん」「④小さいイーダの花」「⑤小さなもみの木」

そのうち②と⑤は、クリスマスにちなんだものです。

これらは『暮らしの手帖』で連載されていた作品だそうで、同じようにグリムの絵本も出版されています。装丁は名久井直子さん。

私は藤城清治さんの影絵が好きで、展覧会に何度か行ったことがあります(那須高原にある美術館にもいつか行ってみたい)。

照明を落とした暗い館内に、美しく浮かび上がる影絵の数々。大きな作品の前に立つと、美しい幻想の中に入っちゃったみたいな、特別なひと時を過ごすことができます。

絵本でその体験を再現するのは非常に難しいですが、それでもページを開くと、影絵ならではの味わいが。

切り絵に似たアナログ感を伴いつつも、光の当て方によるのでしょうか、ふんわりと一部の輪郭をにじませたような奥行きや質感の表現、カラーフィルムを重ねることでうまれる濃淡の表現など、切り絵と違って、光をまとった作品であることが見てとれます。

この絵本で私が一番気に入っている見開きは、本の表紙になっている「眠りの小人のオーレおじさん」から。オーレおじさんがみせてくれた、ハツカネズミのかわいらしい結婚式の様子です。

オーレおじさんは、いい子でいると、きれいなコウモリ傘をつかって、すばらしい夢をみせてくれる小人。参列しているネズミたちは、みんな華やかな装いで、カクテルや花束を手に、新郎新婦を祝福しています。祝福された2匹の、はにかんだ仕草もかわいらしい。

ほかにも、「小さいイーダの花」冒頭場面、町はずれの大きなお城の風景も素敵だし、この時期としては、「ハンスのもらった鳥かご」に登場する控えめで温かみのあるツリーと、「小さなもみの木」で描かれる、お屋敷の広間に相応しい、見事なクリスマスツリーへと変貌を遂げた誇らしげなもみの木とで、描き方が全然違うのも興味深いです。

アンデルセンの中でもメジャーでないタイトルだけに、読み物としても楽しめます。

暖かいブランケットをひざにかけ、傍らには香り高いホットコーヒーを用意して。優しい間接照明のあかりを受けながら懐かしさにひたるような、静かな時間を過ごしたい時にぴったりの絵本です。

ではでは、みなさま。どうぞ素敵なクリスマスとお正月をお過ごしください。

来年もどうぞよろしくお願いいたします。
藤城清治 影絵の絵本 アンデルセン
藤城清治(作)
講談社
profile
恒松 明美
ギャラリーリール(GALLERY RiRE)店主

小説なら1日。映画なら2時間。絵本なら、長くても15分くらいでしょうか。 それでも小説や映画に負けないくらい、心が満たされる絵本があります。 毎日、時間がたりない…。そんな、忙しく働く女性にこそ、 絵本はよきパートナーとなってくれると思います。

毎日窮屈だな。ちょっと背伸びしてばかりだったかな。 「心の凝り」が気になる時におすすめの、絵本をご紹介します。

ギャラリーリール(GALLERY RiRE)
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