CICADA by Shaun Tan
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![]() シニカルで、不思議で、ユーモラス CICADA
by Shaun Tan 月に一度、「洋書と絵本を楽しむ会」を少人数で開催し、絵本を紹介しあっています。
今回ご紹介する『CICADA』は、そこで紹介してもらったもの。 とってもシニカルで、不思議で、ユーモラスな絵本だなあ、という印象だったのですが、心に深く残り、結局購入しました。 Shaun Tanはオーストラリア人のアーティスト。絵本は世界で数々の賞を受賞し、アニメーション作品でもアカデミー賞を受賞しています。 この絵本は、彼の作品の中でも、シンプルで分かりやすく感じました。 Cicada(セミ)は、データ入力作業員として、人間に混じって働いています。 Cicada work in tall building.
Data entry clerk. Seventeen year. No sick day. No mistake. Tok Tok Tok! 詩のような、片言の英語のような文章です。英語の勉強には向きませんが、シンプルで意味は良く分かります。
Cicadaは、17年間、毎日真面目に勤務し続けたのに、誰にも感謝されず、昇進も一切ありませんでした。 同僚からは、苛められ、給料が低すぎるので、やむなく会社の壁際の隙間で暮らしています。 退職の日になっても、パーティーどころか、握手すらありません… 文章と、”Tok Tok Tok!” という不思議な音のせいでしょうか、あんまり酷すぎて、逆に笑ってしまうような雰囲気で、お話が進行します。 作者は、ドイツで目にした無機質な職場環境にインスピレーションを受け、また中国のIT企業で、ビルに飛び降り自殺防止用のネットが張られている(恐いですね!)というニュースを聞き、最初は職場の苛めをテーマに考えました。 制作が進むにつれ、色々な要素が加わっていったので、解釈は人それぞれ、読者にお任せなのだそうです。 自身の父親がマレーシアからオーストラリアに移住した事から、移民の事も想起されます。 日本の職場でも、こんな事が起こりそうでもあります。 主人公がセミであるという事もポイントになります。 文章は、Cicadaの観点から書かれています。 セミなので、人間とはまったく違った価値観を持っているのかもしれません。 周囲の環境が人(セミ)に影響するのでなく、人(セミ)が周囲をどう考えるかで、その人(セミ)生が決まるのかもしれません。 こんな職場で働くのは、誰にとっても辛そう… 作者は最後に松尾芭蕉の俳句を引用しています。 閑さや
岩にしみ入る 蝉の声 calm and serene the sound of a cicada penetrates the rock どういう意味なのか、考えさせられます。ここで蝉が1匹なのは、あのCicadaの声という事なのでしょうか。どんな事を思って鳴いているのでしょうか。
ショーンタンはとても興味深い作家です。 無機質な職場を絵本の舞台にしてしまうなんて、それも面白く読めるものにできるなんて、すごい才能ではないでしょうか。 「ショーン・タンの世界展 どこでもないどこかへ」が現在東京で開催中ですが、秋には京都に回遊してきます。楽しみです。 CICADA
by Shaun Tan Hodder Children's Books ![]()
谷津 いくこ
絵本専門士 絵本を原書で読んでみませんか?アートな絵本、心が豊かになる絵本、英語圏の文化に触れられる絵本などを紹介します。 StoryPlace HP:http://www.storyplace.jp Facebook:https://www.facebook.com/storyplacejp/ |