お金のない王女のおはなし(アーシュラ ジョーンズ )
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![]() おとぎ話とトレンド。そのごちゃまぜ感の調和が楽しい お金のない王女のおはなし
アーシュラ ジョーンズ 個人的な話ですが、5月の連休あたりから父が入院しているため、お店の営業が終わると毎日、母を連れて父を見舞うのが日課となりました。
だいたい病院を後にするのは19時半過ぎ。散歩する習慣もないので、晩夏の日暮れに毎日外出してるのは久しぶりのことです。 少しずつ、夜が長く涼しくなってきたことを日々感じています。 そんなんで、ふと読みたいなあと思ったのが今回の絵本です。 とりわけ、シルエットの技法が効果的に用いられている点に惹かれます。 暑さが和らぎ、夜が長くなってきた頃に味わうほんのり切ない感覚が、この技法が持つノスタルジックな雰囲気とも重なるからかもしれません。 が、“シルエットの技法”と聞いても、表紙からはピンとこないはず。 実は、この絵本のイラストは、最終的にCGで処理されているようですが、水彩、コラージュ、シルエットなど、別々の技法を混在させつつも、うまく調和させつつ、各場面で効果的に用いられているのが特長です。 通常それらはあまり混在しないので、もしかしたらご想像頂くのが難しいかもしれません。正直、うまく説明できません(汗)が、イラストが美しい絵本であることは確かです。 ストーリーはというと、王女さまと王子さまが出会ってハッピーエンド、という定番の展開が軸になっていますが、本を開いて扉絵を見ると、のっけから雑巾がけをする王女の絵が。 何せお金がないのです。王女というか、シンデレラにしか見えない有り様です。 お金がないにもかかわらず、他の王家とのお付き合いや、国民への施し、夢ばかり見てる父親(王さま)の存在と、使用人のいない城や庭の維持管理…。 王女は山積みの問題に日々直面して、恋愛どころではありません。 まるで会社勤めでハードワーク真っ只中の、独身女性のよう。おとぎの国の王女とは思えない、悲壮感をまとった言動が目立ちます。 一方では時代も含め、終盤のハッピーエンドに向かって、古典的なおとぎ話の様々なエッセンスがいくつも散りばめられています。 おとぎ話としてのごちゃまぜ感と、絵の技法のごちゃまぜ感。それから、絵と文それぞれに備わった少しのトレンド感と、おとぎ話に相応しい幸せな結末。絶妙な加減で全体の調和を生み出している、楽しい絵本なのです。 お金のない王女さまは、そのおかげで素敵な王子さまと結ばれることになりました。 私にとって父の病気は、普通に考えるとシビアな現実ですが、案外そのおかげで、あまり接点のなかった父母と毎日会って話す時間を自然と持つようになりました。 毎日、両親と他愛ない会話をするなんて、下手すると子供の頃以来かもしれず、結構楽しんでもいます。 なるべく長生きしてほしいなあと思いつつ、父との時間を大切に過ごしたいと願っているところです。 お金のない王女のおはなし
アーシュラ ジョーンズ(著) サラ ギブ (絵) BL出版 ![]() 恒松 明美
ギャラリーリール(GALLERY RiRE)店主 小説なら1日。映画なら2時間。絵本なら、長くても15分くらいでしょうか。 それでも小説や映画に負けないくらい、心が満たされる絵本があります。 毎日、時間がたりない…。そんな、忙しく働く女性にこそ、 絵本はよきパートナーとなってくれると思います。 毎日窮屈だな。ちょっと背伸びしてばかりだったかな。 「心の凝り」が気になる時におすすめの、絵本をご紹介します。 ギャラリーリール(GALLERY RiRE) |