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たんぽぽは たんぽぽ(おくはらゆめ)

自分の生き方も、誰かの生き方も、大切にしたい

たんぽぽは たんぽぽ
おくはら ゆめ(作)
先月の中頃だったか、近所の公園でたんぽぽが一輪だけ咲いているのを見つけました。

たんぽぽは、まだ寒いうちは茎をのばさないそうです。そのせいか、黄色い飾りボタンが地面に落ちてるみたいな状態。

「しっかり茎がのばせるくらい、早く暖かくなってほしいよね」と、思わず心の中で話しかけてしまいました。

今回ご紹介する絵本は、そりゃそうよっていう、一見なんのこっちゃなタイトルですが、とびきりキュートな作品です。

ここに出てくるたろうくんは、半袖の服を着ているので、春の終わり頃を描いたものかもしれません。もちろんたんぽぽも、茎をしっかり伸ばして咲いてます。

騒がしくさえずるスズメたち。何を言ってるのか、たろうくんが耳をすませると

「たんぽぽは たんぽぽ
たんぽぽは たんぽぽ
たんぽぽは たんぽぽ」
と聞こえます。

すると、たんぽぽたちはみな、ふんわりさせていた花びらを、ぴんと誇らしく伸ばしました。

たんぽぽたちは、ありんこたちに
「ありんこは ありんこ」

ありんこたちは、二匹のねこに
「ねこは ねこ」
とそれぞれ三度言います。

するとありんこたちは、力いっぱい小石を運び、ねこは爪をシャキーンととがらせます。

みんなとっても、誇らしげ。
堂々と自分の一番かっこいい仕草を披露します。

今度はねこが「たろうは たろう」と三度言いました。

「え?ぼく?」と言いながら、もじもじと照れつつも、囃し立てるみんなに向かって堂々と…彼は相当ぶきっちょなウインクを披露しました。

見開きいっぱいに、ぶきっちょなウインクをする彼の顔がアップで描かれていますが、果たしてみんなは、これに満足したでしょうか。

お察しの通り、次の見開きではみんな揃って、そんなに首は曲がらないよ?ってくらい頭を傾けてフリーズしちゃってます。期待外れでがっかりした気持ちを、やんわりと表しているんですね(ありんこまでも)。

読み手にとっては、このあたりが脱力のピークです。にやけずにはおれません。

ふわふわと、軽く大らかなタッチで描かれた絵。その個性にぴったんこの、ゆるゆるとした愛らしい展開。おくはらゆめさんの描き出す世界にふれると、すっかり心の強張りが抜けてしまいます。

しかし、柔らかい綿毛のようなお話でくるまれた、その真ん中にある大切なテーマに、やがて、はっとさせられます。

「わたしは わたし」

自分が誇らしくいられるのはどんな時だろう?自分らしい魅力ってどんなもの?自分自身をどれだけ理解できているだろう?

その後、たろうくんは別な手段でもって、しっかり状況を挽回します。みんな満足そうに、互いに認め合う喜びを分かち合います。

自分の生き方も、誰かの生き方も、大切にしたいな。

春風のような心地よさで、そんな気持ちにさせてくれる作品です。
たんぽぽは たんぽぽ
おくはら ゆめ(作)
大日本図書
profile
恒松 明美
ギャラリーリール(GALLERY RiRE)店主

小説なら1日。映画なら2時間。絵本なら、長くても15分くらいでしょうか。 それでも小説や映画に負けないくらい、心が満たされる絵本があります。 毎日、時間がたりない…。そんな、忙しく働く女性にこそ、 絵本はよきパートナーとなってくれると思います。

毎日窮屈だな。ちょっと背伸びしてばかりだったかな。 「心の凝り」が気になる時におすすめの、絵本をご紹介します。

ギャラリーリール(GALLERY RiRE)
大阪府堺市中区深井水池町3125
営業日:基本的に事前予約制(ご利用方法はHPご確認ください)
定休日:月曜・火曜+不定休
HP:https://galleryrire.theshop.jp/





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