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UMBRELLA by Taro Yashima

UMBRELLA
by Taro Yashima
Momo は3歳の誕生日に赤い長靴と傘をもらいました。

とっても嬉しくて、夜中に起き出してもう一度眺めたほど。

雨が降るのを待ち続けますが、雨は一向に降りません。

待ちくたびれて、日差しを避けるために傘がいるとか、風を避けるために傘をささなきゃとお母さんに訴えますが、とりあってもらえません。

子どもにとって、長靴ってどうしてあんなに魅力的なのでしょう。

私も幼稚園のとき、長靴をはくのが大好きでした。

いつもの靴と違うし、カラフルだし、水溜りでバシャバシャしても濡れない。特別感があるからでしょうか。

お店にも晴れているのに長靴を履いている女の子が時々やってきました。きっと、お母さんが根負けしてしまったのですね。

ついに雨が降って、Momoは傘をさして、長靴をはいて出かけます。

雨が降ると、いつもの風景が違って見えます。

道路にした落書きもすっかり消えてしまいました。

雨粒があちこちで飛び跳ねて、小人たちが踊っているみたい。

Momoは自分の傘を一人でさして、大人の女の人になった気分で歩きます。

それは、Momoが初めて傘をさした日でもありましたが、初めて誰とも手をつながず、一人で歩いた日でもありました。

作者の八島太郎は、反戦運動のため10度も投獄され、1939年に妻と共にアメリカに移り住みます。

絵本はニューヨークで生まれた実の娘のMomoがモデルです。

雨が降ると気分もなんだかすっきりしませんが、3歳のMomoにとって雨の日は長く待ち望んだ特別な日。

雨傘の上に降り注ぐ雨は、素敵な音楽を奏でます。
Bon polo
bon polo
ponpolo ponpolo….
子どもの頃、傘をさすのも長靴をはくのも特別でとっても楽しかったのに、いつから雨がこんなに憂鬱になってしまったのでしょう。

何気ない日常を描いた絵本ですが、独特のイラストと、詩的で静かな表現が長く心に残ります。

私も今年は折りたたみの傘を新調しました。

新しく買ったお気に入りのものを身につけるのは、大人になった今でもちょっと待ち遠しくないですか?

人は、雨を嫌って、「あいにくの雨」などと言いますが、雨が降らないと人も動物も植物も生きていけないのだから、「恵みの雨」と思うべきだと別の本で読み、新鮮な驚きを感じました。

雨傘に落ちる雨の音にも注意を払って、雨をもう少し楽しみたいと思います。
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谷津 いくこ
絵本専門士

絵本を原書で読んでみませんか?アートな絵本、心が豊かになる絵本、英語圏の文化に触れられる絵本などを紹介します。
StoryPlace
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