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あみ りょうこ
版画家 ninjacco

AMIのAMIGO アート・芸術 2019-12-11
Vol.20 自転車でパンを売るおっちゃん、の巻

オラー、こんにちは!! あみりょうこです。12月に入り日本は寒さがぐっと増すころだと思いますが、オアハカも朝晩は少しひんやりするようになりました。昼間は相変わらず半袖でも出歩けるくらいで、日向を歩いていると暑いくらいです。毎年こんなに暑かったかな、と思いながら町をうろつく日々です。

12月に入って、急に町がナビダー(クリスマス)仕様になってきました。町のデコレーションも急ピッチで行われている感じがします。

ソカロの花壇などは土が掘り起こされて、「立ち入り禁止」のテープが張られていたので何事かと思っていると、数日後にはノチェブエナ(ポインセチア)の花を植えこまれていました。花壇が赤い花で埋め尽くされて急にクリスマス感がアップです。

あと12月に入って目につきだしたものといえば「ポンチェ」屋さんです。ポンチェは、暖かいフルーツパンチのような飲み物なのですが、クリスマス時期の名物食べ物といった位置づけで、子寒い夜にポンチェ屋さんを見かけるとついつい飲んであったまりたくなります。

さて、前置きがすっかり長くなってしまいましたが今回は珍しく「おっちゃん」について話そうかと思います。

メヒコの人たちは働き者が多いのですが、街を歩いているとどちらかというと女性の働きぶりに目を奪われることが多い気がします。結構何もせずにぼんやりと座ったりチェスをしているのは男の人が多いです。

そんな中、とても印象深いおっちゃんがいます。彼の名前はJaime(ハイメ)さんといいます。
ハイメさんは60歳後半か、あるいは70歳を回っていそうな感じもするのですが、自転車でパンを売っているおっちゃんです。「ドン・ハイメ」として町の人に親しまれています。

自転車の後ろに「カナスタ」と呼ばれる丸いかごをつけて、その中に小さなパンをてんこ盛りのせて、夜の9時くらいから週に3回ほど町をうろついています。

ある日友だちと街を歩いていると、謎のかごを自転車にくくりつけたおっちゃんが走っているのです。不思議そうに私が見ていると、「あのおっちゃんのパンおいしいで!」と言って、不意におっちゃんを呼び止めました。

おっちゃんはにこにことしながら近づいてきて、おもむろにビニール袋を渡してきました。友だちは慣れたもので、世間話をしながら4つくらいパンをぽんぽんと袋に詰めていきます。

また別の日に今度は一人で歩いていると、あの自転車のおっちゃんが目の前を行くではありませんか。

「パンのおっちゃーん!」

と思わず呼び止めました。そして、話していると彼が「ハイメさん」という名前であることが分かったのです。ドンハイメは、パンを作って夜にそのパンを売り歩く(でも自転車なので、売り駆け回る、とか言うほうがいいのかな?!)らしいのですが、驚いたのはその体力よりも何よりも記憶力のよさです。

最初は、実にたくさんの種類のパンが入っているので驚いていると、全部のパンには名前があるというので、

「これは?」
「コンチャ(メロンパン)」

「これは?」
「グサノ(イモムシ)」

などというやり取りを繰り返していました。パン屋さんなのでパンの名前を知っているのは当たり前なのですが、メヒコのパンは種類もたくさんあるうえに、いちいちかわいいというかユニークなネーミングなので、私は隙あらばパン屋さんでパンの名前を尋ねるようにしています。

ドンハイメにもたくさん教えてもらいましたが、ある時を境にぱたりと見かけなくなりました。それからずいぶん経ってドンハイメと再会したときに「リョウコ!元気か!!」と名前を呼ばれた時には本当に驚いてしまいました。いつもたくさん買うわけではないのに、こんなに久しぶりに会ったのに名前を覚えてもらっているなんて感動です。

うれしい気持ちで話していると、「どこそこに住んでいる○○という日本人の女の子は元気にしているか?」とか「あの日本人は最近見かけないけどどこにいるんだ?」みたいなかんじで次々に女性の名前が飛び出します。

そう、ドンハイメはめちゃくちゃ女の子が大好きなのです。
おいしいパンとかわいらしい笑顔で油断していましたが、間違いなく女好きなおっちゃんです。今ではそれをネタに「ドンハイメ、私とばっかり話してないで次の彼女のところに行かないといつまでたってもパン売り終わらへんで」「んもう~!」などと冗談を言いながら楽しくおしゃべりをする仲です。

メヒコにはいまだに○○屋さんという専門店が多くありますが、それに加えて「移動型」のお店が多いのも特徴的だと感じます。

メヒコには自転車でパンを売るという習慣が昔からあったそうなのです。しかも、かごを頭の上にものせて移動していたのだとか。

日本でもかつて自転車でお豆腐を売っていたそうですが(私は残念ながら見たことがありません。)、ところ変われば豆腐だったりパンだったりいろいろ変わってそこからその国や地域の文化みたいなものが垣間見えて面白いです。

(出典:el universal, eluniversal.com.mx)
最近ではめっきりと減ってしまったそうなので、ドンハイメの到着を心待ちにしている人が多いのも納得です。もちろん、彼の人懐っこさとパンのおいしさもあると思いますが、見かけた人たちがなんとなく懐かしい気持ちにさせられるというのもあるのではないかなという気がします。

もしオアハカの夜を街歩きしているときに、かごを付けたおっちゃんがさっそうと自転車で駆け抜けていたら、あるいは、自転車をしっかり止めてパンかご越しに女の人と楽しそうに話しているおっちゃんがいたら、それはドンハイメです。

ぜひ「ドンハイメ~!」と呼び止めてパンを買ってみてはいかがでしょうか。

かごいっぱいに入った小さなパンを選ぶのは、まるで駄菓子屋に来たようで初めてなのに懐かしいような温かい気持ちになるはずです。
works
【今月の作品】
日本にいた間何も作ることができなかったので、オアハカに戻ってきてからは猛烈にシルクスクリーンをしています。

毎日晴れているので、太陽での感光もばっちりです。
profile
あみ りょうこ
版画家

1982年大阪生まれ、兵庫育ち。メキシコのオアハカ州での暮らしを経て、2020年から日本に。 ものつくりが好きで、オアハカで版画に出会い制作を続けている。
HP:https://amiryoko.wordpress.com/
instagram:ninjacco
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