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岡田 真結子
フラワーデザイナー/バーテンダー flower & bar Relier(ルリエ)

季節を楽しむ花レシピ ライフスタイル 2016-01-27
桜に寄せる想い

私には、92歳になる祖母がいます。

百合子という名前で、
名字にも「花」という文字が入っていて、
その名の通り、お花が好きな女性です。

昔から、祖父母の家の庭には季節毎に沢山の花が咲いていたし、
今でも、床の間と玄関には、庭に咲いたお花を飾ります。

子供の頃、祖母と一緒に近所へ散歩に出掛けると、
道端に咲いている野の花や、
塀の向こうに咲いているお花の名前を、たくさん教えてもらいました。


そんな祖母が、去年自宅で転倒して骨折、入院。
今はリハビリ病院に入院し、自宅での生活に戻れるようにトレーニングしています。

それまで滅多に実家に帰らない私でしたが、
福祉の仕事を選び、介護保険認定調査員として長く働いてきた母が、
「病院のスタッフの方が全部してくれるから、何かしなければいけない事は無いのだけど。」
と言いながらも、
病院での変化の無い毎日に、高齢の祖母が不安を感じるのでは無いかと心配し、
毎日、昼と夜の食事の時間に顔を見に行く姿を見て、
時間のある時は、一緒に付いていくようになりました。


そうして母と一緒に病院に行き始めた頃、
自宅近くの川沿いの道を車で走ると、
私がまだ実家に住んでいる時には無かった桜の木が、
堤防沿いに植えられているのを目にしました。

それを見て私が、
「この道に桜の木を植えたんだね。来年の春、花が咲くかな。」
と言うと、母は、
「おばあちゃんが入院する前、車でこの道を通った時、桜が植えられた事を知ったの。
それを見ておばあちゃんは、
“ここが桜並木になる頃には、私はもういないんだろうなぁ”って言ったのよ。
この木がもっと大きく育って、一面に花が咲くようになるのに何年かかるか・・・。
何て言っていいか分からなくて、その景色が見られるように、
長生きしてねって言ったの。」
と話してくれました。

その話を聞いた時、何とも言い難い感情で胸がいっぱいになり、
先の事を考えると、年を取るという事がこんな寂しい気持ちにもなるのかと
気付かされたのでした。


それ以来、祖母のお見舞いに行って、
祖母が何度も同じ事を話しても、
昔の記憶と今の状況が入り混じっても、
今まで出来ていた事が出来なくなっていても、
全て今起こっているひとつひとつの出来事なのだからと、
受け止めて向き合えるようになりました。

それまでは、衰えていくのを感じる度に、
将来に不安を感じてしまっていたのですが、
出来なくなっていく事を、責めたり悲しむよりも、
今の一瞬一瞬をにこやかに過ごす方が、ずっと楽しいし幸せだと思います。


それに、今祖母がいる病棟は高齢の女性ばかりで、
そのせいもあってか、毎日沢山の「ありがとう。」という言葉が行き交っていて、
そこにいると、温かな気持ちになる事が多いのです。

車椅子からベッドに移してもらった時、
お布団をかけてもらった時、
食堂まで連れて来てもらった時、
使い終わった歯磨きセットを片付けてもらった時・・・。
病室にいても、食堂にいても、
色々な場所で、“ありがとうございます”と言っているのが聞こえてきます。


私が普段過ごしている日常よりも、
沢山聞こえてくる“ありがとう”の言葉。
“ありがとう”って、本当に温かい言葉ですよね。

言葉だけじゃなく、温かいエピソードもありました。

先日病院に行った時は、
「じゃあそろそろ帰るね。」
と祖母に手を振ったら、
いつも食事の席がお隣のおばあちゃんも、それを見て私に手を振ってくれて、
嬉しくなりました。


これからあとどれくらいの時間を、祖母と一緒に生きられるか分からないけれど、
春になったら、あの川沿いの桜を一緒に見たいと思います。

以前、知人のアメリカ人に、
「どうして日本人はそんなに桜が好きなの。他にも綺麗な花は沢山あるのに。」
と尋ねられました。

その時は、
「そんな事考えた事もないけど、一面がピンクに染まって綺麗だし、
あっという間に散るからかな?」
と答えたのですが、
今思うと、日本人の桜に対する特別な想いは、
きっとそれぞれが経験した、沢山の思い出と結び付いているからなのかもしれません。

自分の歴史に、毎年重なる桜の花。
そこに結び付く思い出。

嬉しい事も、悲しい事も、悔しかった事も、楽しかった事も。

桜に抱く想いは、1人1人が生きた、時間の証明のような気がします。

今年も桜の季節が楽しみです。


この頃花市場では、啓翁桜(けいおうざくら)を見かけるようになりました。

啓翁桜は、ソメイヨシノのような太い幹は無く、
細長い枝が何本も集まって1つの株を作り、可憐なピンク色の花を咲かせる桜です。
春に似た環境にした施設で促成させるため、冬に楽しめるのです。

春が近付いてきたら、
東海桜や河津桜、オカメ桜、鬱金(ウコン)など、
切り花の桜の種類も増えてきます。


お花の仕事をしている私も、
市場で桜の枝を探すのが大好き。
今はまだちらほら見かけるくらいですが、
種類も豊富に並ぶようになると、
ちょっとしたお花見をしているかのような気分です。

みなさんもお花屋さんの前を通ったら、
是非桜の枝を探してみて下さいね。
ご自宅に飾ると、一気に春が訪れますよ。
 
皆の日常に、植物がそっと寄り添ってくれることを願い、その時々の私なりのお花の楽しみ方や、花屋として植物と向かい合う中で気付いた素敵な発見をお話していきます。
岡田 真結子
フラワーデザイナー/バーテンダー
Relierが作る作品や空間は 植物の持つ美しさを最大限に引き出す事を、何よりも大切に考えています。 大輪の花や丸いフォルムの花、シフォンのように柔らかい花びらや、 香水のように甘い香りを放つ花。 美しさに驚きと感動をプラスして、五感で感じるお花をご提案します。
flower & bar Relier ルリエ
〒550-0001大阪市西区土佐堀1丁目6-10 土佐堀トキワビル101
定休日:土・日・祝日(土曜日はレッスンのみ)
TEL:06-6131-4623
HP:http://relier-fleurs.com/  
BLOG:http://ameblo.jp/fleur-relier
FB:fleurRelier

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