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池田 千波留
パーソナリティ、ライター 香のん

タカラジェンヌ歳時記 趣味・カルチャー 2014-04-18
宝塚100周年と、去りゆく花組トップ 蘭寿とむ

2014年4月1日、宝塚歌劇団は100周年を迎えました。

それにあわせて、4月4日には宝塚大劇場内に宝塚歌劇団殿堂がオープン。

同日、宝塚ホテルでは800人以上のOGが集まる大同窓会が開催され、

翌5日(土)には宝塚大劇場では秋篠宮ご夫妻ご臨席のもと、記念式典が行われました。

また、宝塚歌劇団生みの親である小林一三ゆかりの逸翁美術館や池田文庫などでは

宝塚関連の春季展が始まるなど、100周年のお祝いムードが高まっています。

 

関係者向けの行事だけではなく、4月4日と6日にはファンにむけた

宝塚歌劇100周年 夢の祭典「時を奏でるスミレの花たち」が開催されました。

この公演は、退団後各方面で活躍するOGと5組の現役トップコンビが勢ぞろいする

まさに夢の祭典で、2日間、合計3回の公演はプレミアチケットとなりました。

劇場で見られないファンのために、

宝塚大劇場に隣接する宝塚バウホールをはじめ

全国の映画館でパブリックビューイングが開催されることになり、

私は幸運にも4日、宝塚バウホールで生中継を見ることができました。

 

夢の祭典のオープニングで出演者が舞台に勢ぞろいしたところは圧巻のひと言。

端から端まで全員がトップ経験者なのですから。

各組のトップスターがバトンをつないでの100周年。

退団後数年の人も、何十年の人も

「心の故郷」宝塚大劇場に再び立った喜びに輝いていました。

祭典の司会を務めたのは、67期生の真矢みき。

現役時代からコメディセンス抜群だった真矢みきの軽妙な司会ぶりは

祭典を大いに盛り上げました。

 

それぞれ代表作の主題歌を歌い継ぐショーのトップバッターは

2012年に退団したばかりの元月組トップスター霧矢大夢。

上下関係の厳しい宝塚歌劇らしく、

90期生の霧矢大夢から、39期生の眞帆志ぶきまで

ほぼ学年をさかのぼるように進行していきました。

夢の祭典1日目のハイライトはなんといっても

元月組トップコンビ大地真央・黒木瞳のデュエット。

宝塚大劇場で再びこのゴールデンコンビを見られるなんて夢のようでした。

 

また、退団後、女優として名をはせ、現在も現役で活躍中の

八千草薫、寿美花代、有馬稲子、朝丘雪路はスペシャルゲストとして

宝塚時代のエピソードや、現在の仕事についてインタビューに答えました。

中でも、女優有馬稲子の語った

「宝塚歌劇は夢の世界です。

 でも、人生の中ではそれはとても短い間のこと。

 退団後の人生のほうが長いの。

 退団した後、どう生きて行くのか、しっかり考えないとダメよ」

という言葉には、説得力がありました。

 

この祭典に出演していた現役生たちは、各組トップスターまでもが

ファン時代に戻ったように、

舞台そでなどから先輩の歌やトークを見つめていたといいます。

3月に、宝塚大劇場で退団公演の幕を下ろした花組トップスター蘭寿とむは

この愛ある直言をどう受け止めたのでしょうか。


まだ寒さの残る3月17日、

花組トップスター蘭寿とむは、宝塚大劇場での退団公演千秋楽を迎えました。

同じ演目が東京宝塚劇場でも上演されるため、

厳密にいえばまだ本当のサヨナラではないものの

本拠地宝塚大劇場での見おさめとなる千秋楽チケットは前売り早々に完売。

チケットが入手できなかったファンの中には

当日早朝から、立ち見やパブリックビューイングのチケットを求めて並んだ人も多く、

その数は1000人を越しました。

 

いつのころからか、退団する生徒のファンは

千秋楽には白い服装で観劇するのがしきたりのようになっています。

「音楽学校のころから注目して応援してきたの。寂しい」

という人もいれば、

「初めて宝塚を見てトップスターのファンになったら、それが退団公演。

これからと思っていたのに、もう宝塚での姿を見られないなんて」

という人もいて、年齢やファンとしての歴史はさまざま。

共通しているのは、惜別の涙と、良い時間を過ごせたことへの感謝、

そして最後の舞台を目に焼き付けたい という熱い思いです。

 

宝塚歌劇では生徒が退団する公演には配慮が見てとれます。

たとえば、まだセリフをしゃべったことがない下級生が退団するのであれば一言セリフがつく、

歌が得意な生徒であればソロパートが、あるいはダンスでトップスターと絡む、など

退団する本人にとってもファンにとっても、心に残るシーンが演出されるのです。

それは座付きの演出家が脚本を書く、宝塚歌劇ならではの温かさでしょう。

ましてやトップスターの退団公演ともなると、

作品そのものが「別れ」や「旅立ち」を印象付けるものになり、ファンの涙を誘うのです。


ゴシックロマンただようオペラ座のファントムから 江戸前のいなせな棟梁まで

さまざまな男性を演じてきた花組トップスター蘭寿とむのサヨナラ公演は、

スーツ物のミュージカル「ラスト・タイクーン」と、

ショー「TAKARAZUKA∞夢眩」の2本立てでした。

主人公の歌やセリフにも、

20年かけて男役を極めた蘭寿とむ本人とオーバーラップする言葉がちりばめられています。

ショーでは、ダンスが得意な蘭寿とむにふさわしい場面が多く、

まだまだ退団するには惜しい、もっといろいろなシーンを見てみたいと

別れを惜しむ気持ちにさせられます。

 

どんな世界でも出処進退を決めるのは簡単なことではありません。

加えて、宝塚歌劇の男役トップスターの引き際には美学が必要でしょう。

俗に「男役10年」と言われるように、

スーツを自然に着こなし、立っているだけでさまになるまでには時間がかかります。

男役としての自分の個性を見極め、頂点を極めたところでの退団。

惜しまれてこその華。

それが宝塚歌劇のトップスターなのかもしれません。

 

トップスターの退団公演の最終3公演に付属しているサヨナラショー。

過去の公演の名場面集のようなものです。

千秋楽には、そのショーのために、全観客にオリジナルのペンライトが配られました。

これは退団する蘭寿とむのファンクラブからの心づくしで、

サヨナラショーの大詰めになると一斉に点灯し、音楽に合わせて揺らすのです。

これもいつのころからか恒例となりました。

 

サヨナラショーを終えて、蘭寿とむが客席に語った最初の言葉は

「ああ、楽しかったァ」。

幕が下りた瞬間の気持ちだそうです。

客席で揺れるライトは美しかったのでしょう

「この景色を一生忘れることはないでしょう」とも語っていました。

 

こうして本拠地宝塚大劇場で、夢の時間を終えた蘭寿とむ。

OG有馬稲子の言うように、退団後の人生をどう見すえているのか…。

でも今はそれを追求するのはやめましょう。

4月10日(木)、東京宝塚劇場での蘭寿とむサヨナラ公演が開幕したばかりなのですから。

 

花組「ラスト・タイクーン」「TAKARAZUKA∞夢眩」

東京宝塚劇場:2014年4月10日(木)~5月11日(日)


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