よあけ(ユリ・シュルヴィッツ)
![]() |
|
![]() クライマックスの見開きの美しさは必見 よあけ
ユリ・シュルヴィッツ(作・絵) ここのところ眠る前に読む本は「指輪物語(1992年の訳のもの)」です。
読んだことがある方ならご理解いただけると思うんですが、ホビット族の説明のための序章はあえての教科書的文体で、まるで睡眠導入剤のよう(苦笑) 1ヶ月近く?序章の内容を頭に入れようと、何度も読み返して格闘するも、かなわず断念。諦めて本編を読み出したところ、これが面白くって!つい夜が明けるまで読みふけってしまうのがダメですね。 というわけで今回の絵本です。タイトルのままテーマは至ってシンプルなのですが、実に味わい深い作品です。 表紙にはどこかの湖畔であることが描かれているのですが、物語の始まりは、暗がりとおぼしきものがあるだけ。それは丸くトリミングされており、添えられたテキスト「おともなく、」から察するに、どこかの場所を描いていると推測する程度にしか判別がつきません。 これがページをめくるごとにじわじわと明るくなって、徐々に輪郭が浮かび、視野も広がると、そこが湖畔であるとわかってきます。 岸にある木の下で眠っているお爺さんと孫の様子に一度フォーカスした後、湖とその周囲にある黒々とした山々を月が照らしている風景が現れます。 何も動いていないことが伝わってくる、すごく静かな絵。 やがて様々な営みが見受けられるようになります。まだ薄暗い中、そよ風でさざ波が立つ様子や、ぼおっと靄がこもる様子、蛙の気配や鳥のさえずり。 普段は町で暮らしていても、山間でキャンプや宿泊した経験があれば、ひんやりと冷たい湿った空気が漂ってきそうな臨場感を覚えるだろうと思います。 そして改めて絵をよく見ると、もう最初からずっと、下地に朝靄の色を思わせる淡いピンクの絵の具が敷かれており、端々に見え隠れしていることに気づきます。 このこだわりようです。夜明けを迎えるクライマックスの見開きの美しさは必見。ぜひ実際にご覧頂きたい、指折りの名場面です。 とここで、あることに気づいて正直びびっています。 夜明けまで本を読んでしまう、という私自身の日常にちなんで選んだつもりが、別な共通項も潜んでいました。 「指輪物語」と今回の「よあけ」。先月ご紹介した作品も。全て訳者が瀬田貞二さん。しかも先月は指輪をエピソードに交えつつのご紹介でした。 無意識のことだし、これって眠る前に「指輪物語」を読んでいる影響じゃ…? 私がいかに単純な人間であるかを如実に表しているとはいえ、こんなことは初めてかも。 アラゴルンの通り名を馳夫と訳す感覚も、今回ご紹介の作品にある詩的表現の美しさも、素敵過ぎ! 瀬田貞二さんの味わい深い翻訳に、すっかり魅了されています(今更かい!) よあけ
ユリ・シュルヴィッツ(作・絵) 瀬田貞二(訳) 福音館書店 ![]() 恒松 明美
ギャラリーリール(GALLERY RiRE)店主 小説なら1日。映画なら2時間。絵本なら、長くても15分くらいでしょうか。 それでも小説や映画に負けないくらい、心が満たされる絵本があります。 毎日、時間がたりない…。そんな、忙しく働く女性にこそ、 絵本はよきパートナーとなってくれると思います。 毎日窮屈だな。ちょっと背伸びしてばかりだったかな。 「心の凝り」が気になる時におすすめの、絵本をご紹介します。 ギャラリーリール(GALLERY RiRE) |
OtherBook