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関西人はなぜ阪急を別格だと思うのか(伊原薫)

この言葉の意味がわかるのは関西人だけ

関西人はなぜ阪急を別格だと思うのか
伊原 薫(著)
私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。その中の「図書館だより」では、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。

今回ご紹介するのは、伊原薫さんの『関西人はなぜ阪急を別格だと思うのか』。

タイトルを見て最初に思ったことは「なぜって?そんなこと急に言われても、物心ついた時から阪急は別格だったもん、理由なんかわからへんわ」。

電車が別格というだけではありません。

小学生の頃には、阪急沿線が高級住宅地と思われていることを周囲の大人の会話からわかっていたように思いますし、私にとっては今も、阪急百貨店こそがナンバーワン百貨店なのです。

そういえば、あるテレビ番組で元プロ野球選手の金村義明さんがこんな話をしておられるのを聞いたことがあります。

金村さんは地元阪急ブレーブスに入団することが夢で、「契約金で(親のために)阪急より上に家建てたる、と思ってました」

この言葉の「阪急より上」の意味がすぐにわかるのは関西人だけではないでしょうか。

関西(京阪神?)では「上」といえば北を指します。

阪急より上、とは阪急電車の路線より北側という意味。

もう少し具体的にいえば、おそらく神戸線よりも山手に家を建ててあげたかったということなのでしょう。

金村さんと私は同学年で、金村さんは宝塚市のご出身。

同じ文化圏に育っているので、きっと幼い頃から阪急を別格だと思って育った一人なのだと思います。

報徳学園のエースで4番として、夏の大会で優勝した金村さんは結果的には近鉄バッファローズに入団し、その時点では「阪急より上」に家を建てることは叶わなかったことになりますが。

ではなぜ、阪急が別格だと思われるようになったのか。

その理由を著者 伊原さんは、さまざまな角度から分析しておられます。

まずは創業者 小林一三さんが、電車をただの輸送手段だとは思っていなかったことが最大の理由としてあげられています。

阪急以前の電鉄会社は、家や商業施設が集中している場所に駅を作り路線を敷き、人々の移動手段として発展してきました。

ところが、小林一三さんはその逆で、先にレールを敷いてから、駅を作り、宅地を開発。

電車を利用する人が少ないならば、百貨店、動物園、宝塚歌劇、など、線路の先に行きたくなるような場所を作り、そこに人を呼ぼうという逆転の発想。

電車に乗ればワクワクする場所に行けるよ、という提案だったわけです。

そして阪急といえばあのマルーンカラー!

普通電車も、準急も特急も、すべて同じ色。

私は旅行に出かけたりした時に、マルーンカラーの車両を見ると「ああ、関西に帰ってきた〜」とジーンとします。

さて、そのマルーンカラーの車体について、鉄道ファンは皆「いつ見てもピカピカだ」とおっしゃるそうな。

そのピカピカさ加減は撮り鉄にとっては苦労の種。写真を撮ると、車体に色々なものが写り込んでしまうんですって。

それは今まで意識してみていなかったです。

このエピソードを読んで、走っている阪急電車の車体を見に行きました。

そしたらね、本当に車体に景色が写っているんですよ!!

ブロック塀くらいなら、筋がわかるくらいに。

びっくりしました。

そういえば、阪急電車は外側だけでなく、車内もとても綺麗です。

掃除が行き届いているという側面と、内装が上品、綺麗、という側面があります。

そのシンボルと言えるのが座席。

深みのある緑色の座席(優先座席はワインカラー)の表面はアンゴラヤギの毛でできているんです。

現在は、他の電鉄会社は座席を化学繊維に切り替えていますが、阪急は依然、天然素材のアンゴラヤギの毛!

なんともいえない手触りも阪急品質なんですね。

そして阪急電車は特急でも特別料金はとりません。

通勤電車も、普通も、特急も、同じように内装・外観ともに高級志向。

それは「お客様に優劣をつけない」という阪急のポリシーなんですって。

阪急が別格といえば、大学時代の同級生に和歌山出身の人がいて、初めて阪急梅田駅のコンコースを見た時に、「す、すごい!!銀河鉄道999みたい!!」と感激していたことを思い出します。

その時私は「いや、スリーナインとはちょっと違うでしょ」と思ったものの、彼女が言いたいことはよくわかりました。

天井の高いホームに京都線から神戸線まで9つの線路、そこに入ってくる電車はすべてマルーンカラーで統一されていて、シンプルにして厳か。

また、車止めには季節の花が飾られていて、何度見ても、美しい光景だと思いますもん。

この本には、阪急の成り立ちや、ビジネスの展開、駅のトリビア的な情報など色々なことが書かれているのですが、阪急のことになると熱く語ってしまって、書いてあることを全部紹介してしまいそう。

なにせ、宝塚歌劇ファンの私にとって、小林一三さんは親戚のおじいちゃんのようなもの。

おじいちゃんの自慢話のような感覚です。

結論としては、阪急が別格と思われるのは、徹底した統一感、ブランディングのうまさが原因なのでしょう。

しかし、そのブランディングの底には、「お客様の生活に豊かさを提供したい」という創業者 小林一三さんの経営理念があるようです。

その豊かさについて、著者の伊原さんは「おわりに」にこう書いておられます。
言うなれば、普通の生活を倹約し、ここぞというときに贅沢をするような生活ではなく、普段から”中の上”の生活を送る……と言ったら伝わるだろうか。「阪急のある生活」は、そんな気がする。
(伊原薫さん『関西人はなぜ阪急を別格だと思うのか』 P254より引用)
おっしゃるとおり。

ああ、私もいつか、もう一度阪急沿線に引っ越したーい!!

毎日マルーンカラーの電車が見られる場所に住みたいよう。

【私の阪急トリビア】

この本には「へー」と思うことがいくつも紹介されていましたが、阪急電車の座席に関して、紹介されていないことがありましたので、勝手に付け加えさせていただきますね。

かつて、宝塚歌劇のお稽古場には、古くなった阪急電車の座席が利用されていたのですよ。

もう取り壊されてしまった旧宝塚大劇場時代、お稽古場だけ別の建物だった時代の話です。

関西ローカルニュースでは、毎年春になると、初舞台生のラインダンスのお稽古風景などが取り上げられるのですが、その際、背後にちらっと映る緑色の長椅子。

いつも「あれ?あの椅子、どこかで見たことがあるなぁ」と思っていました。

ある時、宝塚歌劇の機関紙『歌劇』でエッセーを連載されていた、故 岸香織さんが「阪急電車の座席のお古」だと明かしてくださったのです。

確かに、背もたれ部分のない座席だわ!と納得。阪急グループとして、まだ使える座席を廃品利用(?)していたんですね。

最近のニュース映像で、あの緑色の椅子を見ていない気がするので、1994年(平成4年)に建て替えられてからは、電車の座席の廃品利用はしなくなったのかもしれません。
関西人はなぜ阪急を別格だと思うのか
伊原 薫(著)
交通新聞社新書
阪急は関西で圧倒的なブランドを確立している。ブランディングという概念のない時代から、いかにしてそのブランドをつくりあげ、守ってきたのか?創業時からの歩み、車両、駅やサービスなどに表れる阪急の個性・こだわりに注目。「阪急ブランド」が強固である理由を紐解く。 出典:楽天
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