あたまにつまった石ころが(オーティス ハースト)
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![]() しなやかな心を忘れそうになったとき強く語りかける1冊 あたまにつまった石ころが
キャロル・オーティス ハースト(作) 東京オリンピックのボランティア募集開始と、今年のノーベル医学・生理学賞を日本人研究者が受賞したこと。この原稿を用意している頃、個人的に印象に残っていた話題です。
本来の内容とは少し逸れますが、基礎研究の重要性を訴える情熱にふれたことや、ボランティアの募集方法が物議を醸していると知ったとき、何となく、ふと自身の情熱について意識が向いたのがその理由です。 自身の情熱について考えるとき、個人的に好感を持っているのが今回の作品です。 どうやら実話が元になっていて、アメリカ人である作者のお父様のことのようです。学歴がなく、石ころ集めが大好きな青年が、人生の長い時間をかけて、普通なら不可能に見える職とポジションを手に入れるまでのお話。 彼は、石ころ好きのことで皮肉を言われた直後に、「ところで…」とその相手に石ころの話を切り出せるほど、石ころのことで頭がいっぱい。 自動車がまだ富裕層しか買えない時代。「石に関わる商売=石油」という、こじつけのような根拠にひとまず納得をして、ガソリンスタンドの経営を始めます。 そして店の奥に作ったのは、自ら集めた石の標本を並べる棚です。気まぐれに客が関心を寄せると、世間話をするような軽い口調で、石の説明を始めます。 やがて自動車が一般普及のきっかけを得ると、修理業のニーズを見越してその車を独学で研究します。その際、様々な部品をスクラップの中から探して拾い集める作業が、石ころ集めに似て楽しかったようです。予測は的中し、修理の仕事でスタンドは大賑わい。 後の世界恐慌による波乱と、こんな彼だからこそ訪れた幸運な結末は、ぜひ実際に読んでお楽しみ頂けたらと思います。 彼はどんなときも情熱を絶やしませんでした。周囲がどんな反応を示そうと惑わされることなく、しなやかに受け流し、過酷な環境に放り出されても、やりくりしながら趣味の時間を確保する。 仕事には趣味の楽しさを、趣味には仕事のような専門性を、ときには逆になるほど持ち込んだり、全く持ち込まずに割り切ったり。その見極めも上手でした。 情熱の対象は人それぞれですし、誰もが彼のような稀な人生をそのまま真似れるわけではありません。でも、それと同じくらい言えることは、「自分が少しでも情熱を持てるものは何だろう、それを保つための方法は何だろう?」と、頭と心でじっくり考えるのと考えないのとが、同じ人生になるとも思えないこと。 マスコミやネットによくある、集団で行われる意見の対立や議論などは、社会的には必要とされるプロセスだろうと思います。でもそれらは、時に無防備な個人の心を白けさせ、純粋に芽生えたはずの情熱を、あっさり摘み取ってしまうことがあるようにも思います。 しなやかな心を忘れそうになった時こそ、この作品は強く語りかけてくれます。 「ところで、それより自身の情熱について考えてみませんか。今すぐは無理でも、ずっと未来にいる場所が、必ず違ってくるはずだから」と。 あたまにつまった石ころが
キャロル・オーティス ハースト(作) ジェイムズ スティーブンソン(絵) 千葉 茂樹(訳) 光村教育図書 ![]() 恒松 明美
ギャラリーリール(GALLERY RiRE)店主 小説なら1日。映画なら2時間。絵本なら、長くても15分くらいでしょうか。 それでも小説や映画に負けないくらい、心が満たされる絵本があります。 毎日、時間がたりない…。そんな、忙しく働く女性にこそ、 絵本はよきパートナーとなってくれると思います。 毎日窮屈だな。ちょっと背伸びしてばかりだったかな。 「心の凝り」が気になる時におすすめの、絵本をご紹介します。 ギャラリーリール(GALLERY RiRE) |
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