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マイクロソフトでは出会えなかった天職(ジョン・ウッド)

社会起業活動を支えるのは信念と富、という矛盾

マイクロソフトでは出会えなかった天職
僕はこうして社会起業家になった
ジョン・ウッド (著), 矢羽野 薫 (翻訳)
著者ジョン・ウッドはマイクロソフトで国際市場の開拓を担当していたエリートでした。1998年、多忙な業務をやりくりして休暇を取った彼は、ネパールの山奥の学校を訪問する機会を得ます。そこで見たのは、子どもでぎゅうぎゅうの教室と空っぽの図書館でした。

衝撃を受けたウッドは家族や友人知人に協力を仰ぎ、大量の本を集めます。そして翌年、父とともに8頭のヤクの背に本を積んで現地に届けました。 

1999年末、ウッドはマイクロソフト社を退職し、NGO「ルーム・トゥ・リード」を設立、学校や図書館の建設、女子の就学支援事業に乗り出しました。マイクロソフト時代に培った広い人脈を活用し、彼は並外れた熱意と行動力で活動を拡大します。本人は無報酬、貯金を切り崩す日々を続けながらです。

その熱意を支えたのは子どもの頃の幸せな思い出でした。彼は幼いころ母に読み聞かせをしてもらい、大の本好きになりました。10歳のクリスマスには両親から自転車をプレゼントされ、図書館に足しげく通ったといいます。幼いころに味わった、こうした本との幸せな出会いを、貧しい国に生まれたからといってあきらめなければならない子どもがいてはいけない、その信念が彼の活動の原動力になっているのです。

ウッドが始めたルーム・トゥ・リードは、2015年7月までにアジア・アフリカに1,930校の学校を建設し、17,534室の図書館・図書室を設立しました。2015年までに1000万人の子どもに教育の機会を提供するという目標もみごと達成しました。

ところで、本書を読み進めていくと一つの疑問が生じます。彼らの活動を支える資源はどこから調達しているのでしょう。ウッドは2冊目の著書『僕の「天職」は7000人のキャラバンになった』(ダイヤモンド社、2013年刊)で、事業拡大に伴う資金繰りの難しさを赤裸々に綴っています。

活動を支えているのは大富豪や企業からの大口の寄付です。その額は個人が出せる額とは桁違いです。彼らの社会的使命感や貢献によって得られる成果はもちろん尊いものです。しかし、学校や図書館すら持てない国や地域がある一方で、個人資産や社会貢献という名の経費でそれらを賄えてしまうほど富を蓄えている層が存在するという事実には大きな矛盾を感じざるを得ません。

国際連合は2000年、「ミレニアム開発目標」で、2015年までに世界中の子どもが初等教育の全課程を修了できるようにすると目標を定めました。その取り組みは一定の成果を上げ、初等教育を受けられない世界の児童数は、2000年の1億人から2012年には5800万人へと約半減しました。開発途上地域全体を見ると、初等教育の就学率は2000年の79.8% から2012年の90.5%へと改善しています。

しかし、これは全体としての数字で、地域によってはまだ就学率が80%に届かないところもあります。また就学した児童の25%以上は卒業できていませんし、紛争の影響で通学できない児童も多数存在します。障がい児への配慮不足といった課題も残っています。

ルーム・トゥ・リードは設立当初の目標を達成しましたが、世界にはまだまだ教育の機会を得られていない子どもたちがたくさんいます。彼らの次の目標は2020年までに1500万人に教育を届けることです。

「すべての子どもは限りない可能性を持っていて、実現のための機会を得るにふさわしい存在である」という彼らの活動の信念に賛同し、さらなる活動の展開に注目しつつ、同時に富の偏在やそれを生み出す構造にも目を向けていきたいと思います。
マイクロソフトでは出会えなかった天職
僕はこうして社会起業家になった
ジョン・ウッド (著), 矢羽野 薫 (翻訳)
ダイヤモンド社 (2013)
人生で満足させなければならない相手は自分自身だけ。自分が正しいと思うことをして、その気持ちに正直になればいい―。もっと大きく考えろ―世界を変えたいと思うなら。 出典:amazon
profile
橋本 信子
同志社大学嘱託講師/関西大学非常勤講師

同志社大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。同志社大学嘱託講師、関西大学非常勤講師。政治学、ロシア東欧地域研究等を担当。2011~18年度は、大阪商業大学、流通科学大学において、初年次教育、アカデミック・ライティング、読書指導のプログラム開発に従事。共著に『アカデミック・ライティングの基礎』(晃洋書房 2017年)。
BLOG:http://chekosan.exblog.jp/
Facebook:nobuko.hashimoto.566
⇒関西ウーマンインタビュー(アカデミック編)記事はこちら

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