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My Baba's Garden by Jordan Scott, Illustrated by Sydney Smith

何気ない日常のお話なのに、心が揺さぶられる

My Baba's Garden
by Jordan Scott, Illustrated by Sydney Smith
男の子は、毎朝お父さんの車でおばあちゃんの家に行きます。

おばあちゃんは、ポーランドからの移民で、英語があまり話せません。身振りや、触れあうことでコミュニケーションをとります。

おばあちゃんは、鶏小屋をリノベーションした家に住んでいて、庭でたくさんの野菜を育てています。トマト、きゅうり、にんじん、にんにく、ビートルート… 椅子の上にも、バスルームにも、バルコニーにも収穫した野菜が置かれています。

朝ごはんは、きまって野菜がいっぱいのお粥。男の子がお粥をこぼすと、それにキスをして器に戻し、男の子の頬をやさしくきゅっとします。

おばあちゃんは、戦争中にたいへんな苦労をし、長く食べ物に困っていた経験がありました。

ごはんを食べると、2人で学校まで歩いて行きます。雨の日には、ゆっくり歩き、道にでてきたミミズを捕まえます。ぜんぶ捕まえてガラスのビンに入れます。

学校が終わると、一緒に庭に行って、ミミズを野菜の近くの土に埋めます。おばあちゃんは、ミミズが土を豊かにしてくれることを知っているのです。

これは、“I Talk Like a River”「ぼくは川のように話す」で数々の受賞に輝いた、詩人のJordan Scottと、イラストレーターのSydney Smithの2作目の絵本です。1作目と同じく、Jordan Scottの幼いころの経験にもとづいています。

Sydney Smithは、光の表現のイラストが素晴らしいです。表紙では、おばあちゃんと男の子が手をつないで庭を歩く様子が、フォト作品のよう。

おばあちゃんの家に窓から差し込む光や、雨の表現もうっとり見入ってしまいます。

おばあちゃんは、体が弱って、男の子と家族で一緒に暮らすことになります。もうミミズを集めることもできなくて、窓越しに寂しそうに雨を眺めます。皺のきざまれた横顔、肌の質感や表情にぐっときます。Sydney Smith すごいなあ。

わたしもおばあちゃん子でした。晩年は、アルツハイマーになってしまったおばあちゃん。そうなることが分かっていたのか、意識がはっきりしていたとき、もう次にいつ会えるか分からないと、いつまでも見送ってくれた姿が心に焼き付いています。

老いは、ゆるやかな死なのだと思います。絵本のおばあちゃんは、男の子と心が通じていて幸せだったのではないでしょうか。Jordan Scottは、今でも、自分の子どもたちと一緒にミミズを集めているそうです。

何気ない日常のお話なのに、心が揺さぶられるのは、自分の記憶を呼びおこすところがあるからなんですね。登場人物たちは、写真を参考にすることなく、Sydney Smith の創作で描かれていて、それも作品としての芸術性を高めているのではないでしょうか。このコンビでの次作もあるということで、楽しみです。
My Baba's Garden
by Jordan Scott, Illustrated by Sydney Smith
Publisher: Walker Books Ltd
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谷津 いくこ
絵本専門士

絵本を原書で読んでみませんか?アートな絵本、心が豊かになる絵本、英語圏の文化に触れられる絵本などを紹介します。
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