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I am the Subway by Kim Hyo-eun

乗客を観察する暖かい眼差し

I am the Subway
by Kim Hyo-eun
ソウルの人口は約940万人で、世界第5位の大都市です。地下鉄のネットワークは、近郊の都市までおよび、世界でもっとも長い路線になっています。

その地下鉄が、この絵本の語り手です。見開きには、ソウルを南北に分けて流れる漢江が描かれています。グレーのトーンで、霧がかかったような中、鉄橋の上を電車が走る美しい風景です。

ページをめくると、人々が、地下鉄へのエスカレーターを行き来しています。
I rattle and clatter over the tracks.
Same time, same route, every day.
Carrying people from one place to another…
タイトルページまで6ページ、抑えた色調のイラストが続きます。無表情な人々が、思い思いに電車を待っています。

地下鉄は、そんな乗客一人一人を暖かい眼差しで観察しています。

韓国の地下鉄も、ルートによって色分けされています。これは2番線で、緑色。ソウルをぐるっと回る環状線です。

最初にとまったのは、Hapjeong stationです。Mr. Wanjuが階段を3、4段飛ばしで駆け降りてきます。Quick, Mr. Wanju!

小さい娘のために、いつも遅刻しそうになってしまう Wanju さん。帰りも娘の笑顔を見るために、一番に会社を出ます。

City Hall stationで乗ってきたのは、Grannyです。娘と孫娘のために美味しい料理を作ろうと、新鮮な海産物を抱えていて、強い海の匂いをまとっています。

地下鉄が紹介する人々は、カラーで描かれていきます。他の人々は、モノトーンで透き通っていて、いかにも電車で居合わせる人々という感じです。

小さな子どもたちを連れたお母さん、靴の修理屋さん、受験勉強中の女の子など、いろいろな乗客があらわれます。地下鉄は、みなを愛情深く描写します。

地下鉄といっても、表紙でも光がさしているように、地上も走る路線です。窓の向こうの景色もさまざまで、細かく描き込まれています。
The unique lives of strangers
you might never meet again…
ba-dum, ba-dum, ba-dum, ba-dum
are all around you, every time you take the train.
Ba-dum, ba-dum は、ガタンゴトンのような擬音語。詩的な文章に、水彩の美しいイラストで、一目で欲しくなりました。

作者は30代の韓国女性です。地下鉄で乗客を観察し、スケッチするのが趣味になり、11年も続けました。この絵本は、構想から完成まで3年かかったそうです。

2016年に韓国で出版されたのち、2020年に英語に翻訳され、2021年にWorld Illustration Awardを受賞するなど、高く評価されています。

電車に乗り合わせる人たち、二度と会うこともなく、意識しない存在でしたが、皆それぞれの生活があるのだと思うと、違って見えてきそうではないでしょうか。
I am the Subway
by Kim Hyo-eun
Translated by Deborah Smith
Publisher: Scribble
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谷津 いくこ
絵本専門士

絵本を原書で読んでみませんか?アートな絵本、心が豊かになる絵本、英語圏の文化に触れられる絵本などを紹介します。
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