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ヴァイオリニスト 空に飛びたくて(森悠子)

いま一度、この「節目」に。

ヴァイオリニスト
空に飛びたくて

森 悠子 (著)
著者である森悠子さんは日本を代表するヴァイオリニストです。フランスで30年、その後アメリカのシカゴで5年、それぞれ演奏活動と教壇に立たれました。

幸運にも1995年頃、京都で演奏会を拝聴したことがあります。それは大変素晴しいコンサートで、「こんなに素敵なシューマン(ピアノ5重奏曲)があるなんて…!」と興奮したことを今でも鮮明に記憶しています。

新型コロナウィルスの影響で自分と向き合う時間が増え、演奏や音楽教育について思索を巡らせていた時、この本に出会いました。

人を育てることについて、また自分がどう生きるかについて、音楽家のみならず全てに共通する示唆があるように思いました。
(本文p.168より)
新しい出発点。余計なものを削ぎ落したときから初めて出発できる。それは私自身が経験してきたことだから・・・・・。

それぞれの人間には第二の出発点というのがあるはずだ。第二の出発点、第三の出発点が必ず節目節目にある。しかし、それを“出発”として自分で認めなければ、そういうチャンスに自分から挑まねば、出発はない。

次の節目が必ず人生の間では待っているもの。他人が与えるものではない。今こそ自分が思わなくてはいけない。結局、一生見つけない人もいれば、七〇歳になって見つける人もいる。それでもいい。
今回のことは先延ばしにしていた課題と向き合う時間をもたらしました。

着手するには時間も忍耐もいる。それでも背中を押してくれる力強い言葉となりました。

今、確かに出発点だと実感します。

そして次の話は反省も含めて共感しました。
(本文p.163~)
知識ばかりを得て、考えるプロセスを持たないというのは、現代に特有の合理性優先の思想が大きく浸透しているからだという。

そこに反省を加えようとする動きもあるが、大状況的にはますますそうした方向に向かっているような気がしてならない。父の嘆きを思い出す。(※お父様は教育哲学者の森昭氏)…

どの教材、どの曲でも、とにかく私は、生徒が自ら考えるよう仕向ける。…

教師はヒントを与えるだけ。自分で考えて、次に考えたものを応用する。どこに応用できるか?こういうふうにして自主性を引き出す。考える癖をつける。

だから、フィンガリングも指示しない。「先生、フィンガリング、つけてください」と来たら、「まず考えておいで」と。間違っていてもいいから、まず自分で考えてみたら、と言うことにしている。(※フィンガリングとは運指の意)…

あるとき、このやり方に不満を抱いた人から言われた

―「そんなの、時間の無駄じゃありませんか」と。

考えることが本当に時間の無駄ですか?
考えること、思考を深める習慣は音楽を学ぶ過程で身につけたつもりでした。

充分に分かっているはずなのに…。

忙しい日々に流されていた自分を戒め、今一度じっくり腰を据えて音楽に取り組みたい。

節目が訪れたことをありがたく思います。
ヴァイオリニスト
空に飛びたくて

森 悠子 (著)
春秋社
35年に及ぶ欧米音楽修業・研鑽の旅。独自の発想で展開する「京都フランス音楽アカデミー」「長岡京室内アンサンブル」等、幾多の音楽実践・教育指導の場に臨む孤軍奮闘のドキュメント。 出典:amazon
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植木 美帆
チェリスト

兵庫県出身。チェリスト。大阪音楽大学音楽学部卒業。同大学教育助手を経てドイツ、ミュンヘンに留学。帰国後は演奏活動と共に、大阪音楽大学音楽院の講師として後進の指導にあたっている。「クラシックをより身近に!」との思いより、自らの言葉で語りかけるコンサートは多くの反響を呼んでいる。
Ave Maria
Favorite Cello Collection

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