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The Three Golden Keys by Peter Sis

いつの日かプラハのことを知るために

The Three Golden Keys
by Peter Sis
先日、市立伊丹ミュージアムで開催された、「ピーター・シスの闇と夢」展を訪れました。

絵本も美しいですが、ペンで細密に描かれた原画はとても美しく、こんなに細かく、どうやって描いているんだろう、と心奪われるものでした。

The Three Golden Keys(『三つの金の鍵ー魔法のプラハ』)は、表紙にもあるように、わざと紙がよれているように色が塗られていたり、古めかしく不思議な世界が描かれていて、ずっと眺めていたくなります。猫の顔が建物の中に浮き上がっているように、怖いようでユーモラスなところもあります。

ピーター・シスは、共産主義下のチェコスロバキア(現チェコ共和国)で生まれ、抑圧された世界で過ごしたのち、33歳でアメリカに亡命しました。1989年にベルリンの壁が崩壊し、7年ぶりに家族と再会することができました。

この絵本は、その後の1994年に出版されたもので、プラハの街が舞台で、自伝的な内容になっています。

男の乗った気球が激しい嵐に流され、空気が抜けて、誰もいない不思議な街に降ります。そこは、男が子どものころを過ごしたプラハでした。

記憶をたどりながら、自分の家を見つけると、錆びついた3つの南京錠がかかっています。家に入るには、鍵を見つけなければなりません。

石畳が敷かれ、中世の街並みが残り、世界で一番美しい街とされるプラハ。どこからか黒猫が現れ、男を案内します。

3つの鍵を探して街を歩くうち、季節は夏、冬、秋、春と巡ります。男は、子どものころの出来事を思い出しながら猫についていきます。

街は、精霊や不思議なものに満ちています。アルチンボルドの絵のような果物や本でできた人々も登場します。

鍵は、プラハにまつわる伝説の書かれた巻物と一緒に手渡されます。

ブルンツヴィーグとお供のライオンが魔法使いを倒し、その剣がカレル橋になったお話、人造人間ゴーレムのお話、プラハの天文時計を作ったハヌーシュのお話。手書きの文章で、シーンごとのイラストつきで描かれていて、これだけでもそれぞれ絵本になりそう。

迷路のような街を歩き、家の扉を開けるための鍵を探すのは、どこかコンピューターゲームのように感じられました。

ピーター・シスは、この絵本を娘のマドレーヌのために描きました。ニューヨークで生まれた彼女が、いつの日かプラハのことを知るために。

故郷を愛しながらも、そこで生きることができず、自由を求めて移住したシスの思いが伝わってきます。

世界で唯一、全市が世界遺産に登録されているプラハ。世界一大きい古代の城、プラハ城や、世界で最も美しい図書館、ストラホフ修道院もあります。本当に闇と夢の街ですね。いつか訪れてみたいです。
The Three Golden Keys
by Peter Sis
Publisher: Doubleday
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谷津 いくこ
絵本専門士

絵本を原書で読んでみませんか?アートな絵本、心が豊かになる絵本、英語圏の文化に触れられる絵本などを紹介します。
StoryPlace
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