ロバのシルベスターとまほうの小石(ウィリアム・スタイグ)
この独特の味わいはなかなか出せるものじゃない ロバのシルベスターとまほうの小石
ウィリアム・スタイグ(作) 7年前だったか、祖母の遺品整理を手伝った際、私の手元にやってきた指輪があります。
シックな雰囲気で、どことなく紫や緑のニュアンスを帯びた、グレーの石がセッティングされたもの。 私はこういうの大好きなんだけど、母は好みでない様子。「そしたら、あんたが持ってたらええわ」と、私の元へ。 以来、大切にしまったままだったのが、着物を着るようになったことで「アンティーク着物に合わせたら素敵かも!」と、身につけて出かけてみたら。 喫茶店のテーブルランプに照らされた指輪の石が、ピンク色に変わってる…! 驚きました。実は、白熱灯で色が変わる石だったんです。 今回ご紹介する作品に登場する「まほうの小石」は、燃えるように赤く光って、ビー玉みたいにまんまる。色は変わったりしませんが、願いを何でも叶えてくれる、まさに魔法の小石です。 そして主人公は、珍しい石を集めるのが好きなロバのシルベスター。 彼はこの魔法の小石を見つけて、家に持ち帰る途中、ライオンに出くわします。 だったら「ライオンを消してほしい」と小石に願えばよかったわけですが、彼はパニックのあまり気が動転して「僕は岩になりたい」と願ってしまいます。 ライオンの餌食にならずに済んだものの、今度は岩になったまま動けないし、誰にも気づいてもらえない。すぐそばに魔法の小石があっても拾えず、小石に願いは届きません。 「あの時、なんでそっち(あかんほう)選んじゃったんだろう…」っていうやつ。 私はそこそこ経験があるんですけれど、皆さんはいかがでしょう? さて、人知れず岩になって何もできないという状況は…はっきり言って、相当シビアなピンチです。 表紙の絵、お気づきでしょうか。これは、シルベスターの両親が彼を懸命に捜し歩いている場面なんです。そこ、表紙にするか??っていう(苦笑) だけどご心配には及びません。今回もばっちりハッピーエンドです。しかも、こんな状況にもかかわらず、その展開はちっとも強引じゃない。 どうやって??気になりますよね!ぜひ作品を読んでみてくださいね。 魅力としてもう一つ。各キャラクターの表情と作品全体のテンポです。ともすると間延びしたようになってしまいかねない、ギリギリのラインを攻めた感じが絶妙で。この類いのスローリーな独特の味わいは、なかなか出せるものじゃない気がします。 物語の最後、魔法の小石は金庫にしまわれます。 一方で、長年しまわれてきた祖母の指輪。この子には、また活躍してもらおうと思います。 祖母にしてはシックなチョイスがずっと謎だったけど、カラーチェンジときたか。先の謎は解けたものの、まさかのチョイス。母はこのこと、知ってるのかな。 ロバのシルベスターとまほうの小石
ウィリアム・スタイグ(作)せた ていじ(訳) 評論社 恒松 明美
ギャラリーリール(GALLERY RiRE)店主 小説なら1日。映画なら2時間。絵本なら、長くても15分くらいでしょうか。 それでも小説や映画に負けないくらい、心が満たされる絵本があります。 毎日、時間がたりない…。そんな、忙しく働く女性にこそ、 絵本はよきパートナーとなってくれると思います。 毎日窮屈だな。ちょっと背伸びしてばかりだったかな。 「心の凝り」が気になる時におすすめの、絵本をご紹介します。 ギャラリーリール(GALLERY RiRE) |