The Wanderer by Peter Van Den Ende
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![]() 読む人によって異なるメッセージ The Wanderer
by Peter Van Den Ende 星いっぱい夜空の下には、海に浮かぶ折り紙の小舟。たくさんの魚が興味深げに舟に押し寄せていて、その光る目も星のようです。表紙も印象的ですが、中のイラストも、すべてペンで描かれた白黒の細密画。微細さ、美しさに、驚き、そして惹き込まれます。
著者のペーター・ヴァン・デン・エンデは、1985年ベルギーのオランダ語圏生まれ。37歳で、この作品がデビュー作です。ケイマン諸島でネイチャーガイドを2年勤めていました。サンゴ礁や、マングローブの森、さまざまな魚たちなどの、海の中の豊かな表現もうなずけます。 この本には文字がありません。不思議な生き物たちがたくさん登場して、人と共存しているところは、スターウォーズの世界のようです。初めて読んだときには、イラストに圧倒され、抽象的なアート作品と感じましたが、繰り返し読むことで、お話になっているのが分かりました。同じ人物が繰り返し登場したり、サブストーリーもあったりで、読むたびに発見があります。 この本は、2019年に原題 Zwerveling として出版されたのち、2020年に英語版が刊行され、NYタイムスとWSジャーナルのベストブックに選ばれました。世界12カ国以上で翻訳されている、話題の作品です。日本でも、昨年『旅する小舟』が岸本佐知子さんの訳で発売され、売上を伸ばしています。 物語の始めに、2人の船員が、シーツのような大きな紙を折って、小舟を作ります。小舟は、北太平洋から出発し、最初はぐるぐるさまよいながら、北大西洋、南太平洋、南極海、南大西洋と5つの海を巡る大冒険をします。 南極までの海は魚、珊瑚、海藻などの生き物にあふれていて、みんな小舟に興味津々。圧巻なのは、著者も思い入れのある12の頭を持つイグアナです。パイプをふかすクジラや、テレビで惑わそうとするユーモラスなモンスターも登場します。 氷山を超えると、一転して暗い世界に。工場の煙突から吐き出される汚れた煙のために、たくさんの鳥が空から落ちてきます。銃を構えたロボットたちから攻撃を受け、穴が空いてしまいますが、逃走中のロボットを救い出しもします。 著者は、大きな世界の中の、小さくて弱い存在として小舟を描きました。弱さは何もチャレンジしないことへの言い訳にはならず、勇気を持って立ち向かえば、何かしらの変化は起こせるはず。読む人によって、異なるメッセージを受け取ることができそうです。 絵本の制作には、3年が費やされました。出てくる文字は、船の名前くらいですが、それぞれ意味があるので、興味のある方は、調べてみてください。著者のインタビューをいくつか見たり読んだりしましたが、どれも異なるエピソードが披露されていて、この本の奥深さを感じました。ラストのシーンも、とても幻想的で素敵です。 日本語版『旅する小舟』では、ウェブから応募できる作文コンクールが開かれています。自分だけの物語を想像して、応募してみるのも楽しそう。 The Wanderer
by Peter Van Den Ende Publisher: Pushkin Press ![]() 谷津 いくこ
絵本専門士 絵本を原書で読んでみませんか?アートな絵本、心が豊かになる絵本、英語圏の文化に触れられる絵本などを紹介します。 StoryPlace HP:http://www.storyplace.jp Facebook:https://www.facebook.com/storyplacejp/ |