The Singing Bones by Shaun Tan
原始的で芸術的なグリム童話の世界 The Singing Bones
by Shaun Tan ハロウィーンにちなんだ絵本を探していたところ、先月に引き続きショーン・タンの作品になってしまいました。イラストではなく、立体作品の写真絵本です。75のグリム童話と、それに合わせて制作された彫像を、さまざまな演出で撮影したもので、とても芸術的です。彫像たちは、少し不気味ですが、ユーモラスでもあり、くすっと笑ってしまうものもあります。
タイトルの “The Singing Bones” は、日本では「歌う骨」と訳されています。兄が弟を殺して、イノシシを退治した手柄を自分のものにしてしまいます。何も知らない羊飼いが、弟の骨を見つけて角笛をつくって吹くと、骨がひとりでに歌い出し、悪事を暴く、というお話です。有名ではありませんが、どこか聞いたことがあるのではないでしょうか。 グリム童話は、グリム兄弟によって集められたドイツの昔話集で、初版は1812年です。多くは口承の物語。最も多くの言語に訳され、最も多くの人に読まれ、最も多くの挿絵が描かれた文学と言われています。最終的には、200篇の昔話が集められ、掲載されました。 ショーン・タンは、カナダのイヌイットの石像と、メキシコの先コロンブス期の粘土像にインスピレーションを得て、これらの作品を作りました。とても原始的で、単純化されていて、昔話の辻褄の合わなかったり、曖昧だったりする雰囲気にしっくり合うように思います。 「白雪姫」「シンデレラ」「ブレーメンの音楽隊」などのような、みなが知っているお話もありますが、あまり知られていないお話もたくさんあって、興味がそそられます。添えられている文章は、お話の一部だけなのですが、巻末には、それぞれのお話のあらすじも掲載されています。ネットで検索しても、日本語であらすじは見つかるので、私もこの本を読みながら、いろいろ検索しました。 ショーン・タンも、この本をきっかけに、グリム童話を読み直してもらいたい、特にあまり有名でないお話に目を向けてもらいたい、と書いています。世界中にこれだけ広く行き渡り、長く読まれているだけあって、お話はバラエティに富み、そして面白いです。多少残酷なところもありますが、昔話ならではのことだと思います。 この絵本は、ショーン・タンの母国、オーストラリアで最初に出版され、同時にすべての彫像の展示が行われました。とっても見たかったです。残念ながら、これらの像を運んだり、演出して展示するのは、とても大変なことなので、他の場所での再現は難しいそう。2年前の「ショーン・タンの世界展」では、一部の作品だけ見ることができました。どれも、「オレンジくらいの大きさ」ということで、大きなものではありません。 裏表紙のこの絵は、”The Master Thief”「どろぼうの名人」というお話の彫像で、カニの背にロウソクがのせられています。変なお話ですよね。興味を持ったかたは、検索してみてくださいね。 The Singing Bones
by Shaun Tan Publisher: Allen & Unwin
谷津 いくこ
絵本専門士 絵本を原書で読んでみませんか?アートな絵本、心が豊かになる絵本、英語圏の文化に触れられる絵本などを紹介します。 StoryPlace HP:http://www.storyplace.jp Facebook:https://www.facebook.com/storyplacejp/ |